NO.45 萃(すい="Clustering"):富が集まる、権力の運用

萃(すい="Clustering")シンボル









萃(すい="Clustering")



⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上6(Upper6)、95、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。


構成の解説

上卦(Upper trigram)は、
「☱ 兌(だ:Dui)」="exchange":水が流れ込みたまっている様子、沢・悦び・口

下卦(Lower trigram)は、
「☷ 坤(こん:Kun)」="Field":大地・従順さ・女性原理・消極・受動的


上が悦びを意味し、下は従順に従う意味。

「すべてのものが悦びをもってなにかに順う」ので、人や資金、モノが「集まってくる」。

力が集まるということは、その処理やコントロールが必要になってくる。

卦辞(Explanation of the Hexagram)では、セレモニーを例に挙げて、集まった力を統率する方法が述べられている。

また、人々が集まり、一緒になにかやるということは、その目的や大義がこれまた重要になってくる。

爻辞(Explanation of the Lines)では、易経は実際的な側面から、「集まる」という人間界の現象について観察する。

萃(すい="Clustering"):富が集まる、権力の運用
萃(すい="Clustering"):富が集まる、権力の運用


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたの願いはかなう。功績を挙げた王が、祖先を祀る廟堂に入る。実力者と会い、援助をうけるのがよい。あなたが思うことはきっとうまくいく。誠実さと大義をもって行動するがよい。大きな牛を犠牲に捧げて吉。物事を実行に移してよい。」

卦辞 萃、亨(とお)る。王有廟(ゆうびょう)に假(いた)る。大人を見るに利あり。亨る。貞(ただ)しきに利あり。大牲(たいせい)を用いるに吉。往くところあるに利あり。 (萃、亨。王假有廟。利見大人。亨。利貞。用大牲吉。利有攸往。)

この卦(Hexagram)は、「すべてのものが悦びをもってなにかに順う」ので、人や資金、モノが集まってきます。

上卦(Upper trigram)の中心である95と、下卦(Lower trigram)の中心である62は、「陰」と「陽」で調和しますから、物事がうまくいきます。

「功績を挙げた王が、祖先を祀る廟堂に入る。」というフレーズは、王が先祖の祀られている廟堂に参拝することを意味します。

祖先を祀る儀礼は、多くの一族関係者を集めて行われます。

このフレーズは、易経では他でも出て来て、意味はエナジーの集合です。


あなたの周りに、現在、人やモノやお金が集まってきている、ということをこのフレーズは意味するので、あなたに大きなチャンスが訪れていることを示します。

力が集まれば、力の使い道が重要です。

あなたは力を持った実力者に、全体の統率をお願いし、さらなる援助を要請すべきです。

また、あなたは集まった力をいい方向で使うための誠実さと大義を持たねばなりません。


「あなたは大きな牛を犠牲に捧げることを許される。」とは、牛を犠牲に捧げること。

牛は犠牲に捧げるものとしては最も大きなもので、通常の供え物としては使われません。

しかし、今回は非常に多くの人や金やモノが集まるので、それを円満に動かしていくためには最大の犠牲を払ってよい、つまり祭りやセレモニーに大きな出費をしても構いません。

これは、事業などで言えば初期投資などにあたります。

現在進めようとする事業の見通しがかなり広大なので、投資を思い切った形で行ってもよいのです。

この卦(Hexagram)が出た場合、あなたの周りに大きな力が集まってきます。

あなたにとっては、大きなプロジェクトの実行が許される時です。


※筆者注

ところで「功績を挙げた王が、祖先を祀る廟堂に入る。」というフレーズは、セレモニーを意味します。

責任者が皆を集めて儀式を行う慣習は、古今東西どこでもみられることです。

あなたは「どうして、こんな大げさなことに、時間や金をかけて無駄なことをやるのだろう?」と思ったことはありませんか?

たとえば、冠婚葬祭。

たとえば、学校で毎週のように全校生徒を集めて校長先生がお話をします。

たとえば、市長が大きな催しで挨拶し、大統領が国家の儀式で演説します。

これらの儀式は、実務上ではあまり意味があるとは思えません。

しかし大きな力が集まった場合は、それを統率する必要があります。

そのためには「セレモニー」を行うことにより、全体の目的や大義を明確にすることができます。

各種のセレモニーは、集まるエナジーに方向性を与える、という点では意味があることなのです。

人間は群れで生活します。

群れは異なる立場や個性のものが集まって成り立つので、群れの方向性を決めなければ、動けません。

その群れが、家族という最小単位であっても、組織であっても国家であっても、「統一された目的や意識」という方向性が必要です。

そういう意味では、生業としては無意味のようでも、儀式というのは大きな役割を果たしているのです。


◇ひと言アドバイス(象)

争いの原因を事前に排除しよう

大地の上に沢があるのがこの卦(Hexagram)の形です。

これは川の氾濫を表し、集まったエナジーには危険が伴うことを意味します。

そこで易経は、この時期においては、「武器を排除して、不測の衝突を警戒しなさい」とアドバイスします。

この時期は、多くの者が集まってくるのですから、ちょっとした誤解から騒動も起こりやすい時です。

多くの人が集まってなにか行うにあたっては、争いの原因となりそうなことは事前に排除するのは重要です。

たとえば意見が対立している案件とか、権利を主張するものが複数いる案件とか、そういったことは不慮の争いや事故につながりかねません。

不穏なテーマを除外し、今はみんなに共通の大義と目的に集中する必要があります。

集まったエナジーを統率することは難しいことです。

だからこそセレモニーなどを用いて力の統率をはかるわけですが、火種の排除もまたこの時期には必要なことです。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

萃(すい="Clustering")
⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上6(Upper6)、95、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「彼は、正しい信念を持ってはいるが、なかなか実現できない。彼は混乱し、悪い仲間たちと集まっている。泣き叫んで後悔すれば、正しい相手と手を握り合って笑える日が彼におとずれる。彼は躊躇せず正しい方向へ進んで問題はない。」

初爻 初六、孚(まこと)ありて終わらず。乃(すなわ)ち乱れ乃(すなわち)萃(あつ)まる。若し号(さけ)べば、一握(いちあく)笑いとならん。恤(うれ)うるなかれ。往けば咎(とが)なし。 (初六、有孚不終。乃乱乃萃。若号、一握為笑。勿恤。往无咎。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初6(First6)は「陰(Yin)」で、気が弱い人物です。

一番目の位置は、ここでは人が集まる最初の時を意味します。

彼のいる場所は、本来は「陽」が入るべき位置ですので、彼はミスマッチしています。

下卦(Lower trigram)に集まる三つの「陰(Yins)」は、悪人の集団を意味し、彼も悪人たちの仲間です。

彼には正しい心がありますが、彼の弱い心が悪人たちとの付き合いをさせています。

しかし、彼が本来、仲良くすべき相手は、94です。

彼と94は、対応し合う位置関係にありますし、彼らは「陰」と「陽」で調和します。

ここで彼がとるべき態度は、泣き叫んで後悔し、悪い仲間たちと別れることです。

そうすれば、94が彼を助けてくれますから、彼は94と手を握り合って、輝く未来へ進んでいけます。

後悔することはなくなります。


あなたは、悪い仲間たちと手を切ることです。

そうすれば、あなたにふさわしい仲間が集まってくることでしょう。


◇2nd 陰 62

「彼は、上の実力者が彼を援助してくれるならば吉となる。誠意や大義を彼が見失わないならば、粗末な捧げものであっても神は願いを聞き入れる。いい状況になる。」

二爻 六二、引けば吉。咎(とが)なし。孚(まこと)あって乃(すなわ)ち禴(やく)を用うるに利あり。 (六二、引吉。无咎。孚乃利用禴。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は、「陰」が集まった下卦(Lower trigram)の中心にいます。

彼は悪人たちに取り囲まれています。

でも62は二番目の位置にいるので、誠意を持っています。

上に95がいますが、95が62の正式な君主です。

62は95に仕える気持ちがありますが、悪人たちに取り囲まれていますから、なかなか95のところへ行けません。

95が協力してくれれば、状況は吉となりますが、95次第です。

62は待つしかありません。

でも、彼が誠意をほんのわずかでも示すならば、神は粗末な捧げものであっても彼の願いを受け入れます。


あなたは、たとえわずかでも誠意があるならば相手に伝えてください。

あなたは今、悪い仲間に囲まれて動けないかもしれません。

しかし、そこから抜け出す気持ちを示せば、不思議なことに道は開けてるでしょう。

あなたの上の協力者が、援助してくれる可能性があります。


◇3rd 陰 63

「彼は、集まる仲間がおらず嘆いてばかりいる。状況は良くない。力がない相手を頼れば災いは避けられる。だが、少し恥ずかしい。」

三爻 六三、萃如(すいじょ)たり、嗟如(さじょ)たり。利するところなし。往いて咎(とが)なし。小(すこ)しく吝(りん)。 (六三、萃如、嗟如。无攸利。往无咎。小吝。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は「陰(Yin)」ですが、「陽」が入るべき三番目の位置にいるので、彼はミスマッチしています。

さて、彼は誰かと集まりたいと思っています。

ですが、62はすでに95と組んでいます。

94は「陽」なので、彼と94は「陰」と「陽」で調和しますが、94も本来は「陰」が入るべき四番目の位置にいるので不正です。

また彼らには、正式な対応関係もありません。

力がなく、今は困っていますから、63はため息をつきます。

こうなったら、彼は正式な対応関係にある上6(Upper6)に援助をお願いするしかありません。

上6(Upper6)に援助してもらえば、彼は災いは避けることができます。

が、上6(Upper6)も「陰」で、力がありません。

力がないものにお願いすることは、恥ずかしいことです。


長い人生では、困っていてもいい援助者に恵まれない時期もあります。

あなたは、こういう時期は最善策で乗り越えてください。

最良の解決策ではないかもしれませんが、とりあえずあなたは災いは避けることができます。

そのうえでさらに機会を待ちましょう。


◇4th 陽 94

「あなたは、大いに吉である。問題も起こらない。」

四爻 九四、大吉にして。咎(とが)なし。 (九四、大吉。无咎。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


94は、君主の下に位置する実力者で、会社で言えば執行役員といったところでしょうか。

おとなしく部下に任せる立場を意味する四番目の位置にいるにもかかわらず、彼は「陽」ですので、いろいろと口出しし、越権行為をします。

彼は本来ならばミスマッチしているのですが、今は下に無能な「陰(Yins)」しかいません。

彼が口うるさく指示を出さねば、無能な「陰たち(Yins)」は仕事をしませんので、彼は欠かすことができない存在です。

彼は大きな権限と実力ですべてを取り仕切り、集まった人や資金やモノを有効に動かし、全体を繁栄させます。

なので彼は大いに吉なのであり、問題は起こりません。

不正な身の上であっても、彼のように重要な役目を果たす人間もいるのです。


あなたは、今はいろいろミスマッチしていますが、全体の役に立っているならば、大きな幸運を得るでしょう。。


◇5th 陽 95

「力が集まってくるこの時期に、あなたはリーダーを務める地位にいる。問題はない。もし周りからまだ信用されていないならば、あなたの大義や信念を持続するように心がければ、後悔しない。」

五爻 九五、萃(あつ)むるに位(くらい)あり。咎(とが)なし。孚(まこと)とするにあらざるときは、元永貞(げんえいてい)にして悔い亡(ほろ)ぶ。 (九五、萃有位。无咎。匪孚。元永貞。悔亡。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


95は「陽」で、正しく五番目の位置にいます。

彼は中庸でバランス感覚がありますから、優れた王です。

あらゆる力が集まってくるこの時期において、彼はみんなの中心としてなんの問題もなく統治できるでしょう。

しかし多くに人が集まれば、95を本心から信用しない人がいるかもしれません。

しかし相手のせいにするのではなく、彼は自分に徳がないからだと自覚して、大義や真心を持続していけるよう努力すべきです。

そうすれば彼は後悔せずに済みます。

大きな集まりになればなるほど、リーダーは自分を抑えて謙虚にならねば、集まったエナジーを統率できません。


この爻(Line)が出たら、あなたはリーダーを務めることとなるでしょう。

あなたの信念や大義をみんなに伝えるよう努力してください。

そうすれば、後悔することがなくなります。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「誰も集まってこないので、彼は悲しみ、不平を言い、泣き叫ぶ。そのようであれば問題はなくなる。」

上爻 上六、齎咨(しし)、涕洟(ていい)す。咎(とが)なし。 (上六、齎咨、涕洟。无咎。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は、<䷬ 萃(すい="Clustering")>の終極点を意味します。

力が集まってくるはずの時期なのに、誰も上6(Upper6)のところには集まってきません。

なぜなら、彼はただ一人遠く離れた僻地にいて、誰も親交を持とうとしないからです。

それで彼は悲しみに暮れ、他の人を恨み、声を上げて泣き叫ぶのです。


しかし、易経は、「そのようであれば問題はない」と言います。

誰も近寄ってこないことを悲嘆するのであれば、彼は生き方を変えるかもしれないからです。

これまでの生き方を彼が変えるならば、人が集まってくるかもしれません。

だから、彼が嘆き悲しむことは、逆説的に言って、問題解決につながるのです。


悲嘆にくれるということは、必ずしも悪いことではない、と易経は考えます。

人間が変わるには、きっかけが必要なのです。

あなたは、現在の自分の状況を嘆いているかもしれません。

もし、嘆くならば、自分を変えましょう。

あなたが変われば、未来も変わります。

嘆きは、あなたが変わるきっかけとなります。


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