NO.42 益(えき="Augmenting"): 上から下へ施す、公共投資

益(えき="Augmenting")シンボル









益(えき="Augmenting")



6th:陽:上9(Upper9)
5th:陽:95
4th:陰:64
⚋ 3rd::63
⚋ 2nd:陰:62
1st:陽:初9(First9)

※上9(Upper9)、95、64、63、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

益(えき="Augmenting"): 上から下へ施す、公共投資
益(えき="Augmenting"): 上から下へ施す、公共投資。

構造の解説

上卦(Upper trigram)
「☴ 巽(そん:Xun)」="Ground":風・木・中に入り込む動き

下卦(Lower trigram)
「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake":雷・地震・物事の胎動・妊娠

下に「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake"、最初の動きが発生して、それにより上の「☴ 巽(そん:Xun)」="Ground"が前へと押し出されるイメージ。「☴ 巽(そん:Xun)」="Ground"は木なので、「船」の意味も出てくる。

上から下に、陽爻が施された形なので、施す、増すを意味する<䷩ 益(えき="Augmenting")>という。

もともと、すべてがうまくいかない暗黒時代である<䷋ 否(ひ="Obstruction")>の状況があって、

<䷋ 否(ひ="Obstruction")>






ここから、上にまとまってしまっている「陽」を一つ減らして下に増すと、


<䷩ 益(えき="Augmenting")>



→「陽」
←「陽」

になるという。

<䷨ 損(そん="Diminishing")>は、下から徴収して上に増し、公共の財源を増やすということで、税金の意味があったのに対し、<䷩ 益(えき="Augmenting")>の場合は上から下へと公布する、交付金のようなイメージである。

増す、増やしてやる、施すという意味。

<䷨ 損(そん="Diminishing")>とは反対の概念であり、対をなしている。


卦辞=Explanation of the Hexagram

「あなたは考えていることを実行してもよい。大きな川を渡るような冒険をしてもいいだろう。」

卦辞 益、往くところ有るに利あり。大川を渉るに利あり。 (益、利有攸往。利渉大川。)

<䷨ 損(そん="Diminishing")>という卦は、下の民衆から減らす、つまり税金を徴収することを意味する卦でしたが、これが常態化し、行き過ぎれば、支配層にばかり富が集まり、民衆は貧しくなります。そして、暗黒時代=<䷋ 否(ひ="Obstruction")>で表される状況となります。

これは富裕層と貧民に二分化された、暗黒世界です。

この状況をなんとかするためには、富の再分配、つまり上の持てるものから減らし、下に対して増やすという、公共経済学的な発想が必要になってくるというのが、<䷩ 益(えき="Augmenting")>に示される状況です。

天が施し、それにより地であたらな活動が生じるという理屈です。

下卦(Lower trigram)の中心の62は陰、上卦(Upper trigram)の中心の95は陽で、応じ合う関係です。

全体としては公正なことが行われうるめでたい形となり、うまく事が実現する暗示を持っています。

また、下にある「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake"は物事が発生して上がっていくイメージ、上の「☴ 巽(そん:Xun)」="Ground"は風のように世界に入り込んでいくイメージですので、下に対して施す公共投資が世界全体にいいエネルギー循環を作り出します。

「☴ 巽(そん:Xun)」="Ground"は木で、船のイメージも持つことから、大きな川を渡るような冒険的を試みてもよい、という判断が出てきます。

占ってこの卦(か=Hexagram)が出た人は、富を持つ者はそれをみんなに分け与えなさい、ということです。

しかし、タイミングを見たうえで。

すべての<䷩ 益(えき="Augmenting")>に関する状況は、タイミングが重要であることを様々な角度からこの卦(か=Hexagram)は示します。

◇ひと言アドバイス(象)

他者のいいところを取り入れ、自分の間違いは改めよう

上卦(Upper trigram)は風で、下卦(Lower trigram)は雷というのが<䷩ 益(えき="Augmenting")>ですが、風と雷は互いに相乗効果を出し影響しあいます。

あなた自身の利益を増やすためには、他者にいいところがあったら、それをどんどん取り入れてあなた自身の能力を増やすようにしなさい、またあなたに間違ったところがあったら、すぐに改めるようにしなさい、と<䷩ 益(えき="Augmenting")>の「象」はアドバイスします。

日頃から自分を客観的に見て、謙虚でなければなりません。

増やすことと減らすことは、表裏一体ですが、個人においても社会においても、そのバランスを正しくとっていくのであれば、状況はかならずよくなります。


爻辞=Explanation of the Lines

益(えき="Augmenting")
⚊ 6th:陽:上9(Upper9)
⚊ 5th:陽:95
⚋ 4th:陰:64
⚋ 3rd::63
⚋ 2nd:陰:62
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上9(Upper9)、95、64、63、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)

「あなたは大きな事業を進めるのにふさわしい状況にいる。ただし、あなたの目的が正しいことを条件とする。そうであるならば大いにめでたく、そして問題も起こらないだろう。」

初爻 初九、用って大作を為すに利あり。元吉たる。咎なし。 (初九、利用為大作。元吉。无咎。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初9(=First9)は一番下の最下位で立場は大きくありませんが、まさに上からもたらされる施しを受けています。

大きな期待をかけられて補助金を出してもらったようなイメージですので、それをもとに大きな事業に乗り出していくことは、上からの投資に対する義務でもあります。

しかし、いわば公金、公共性の高い援助を受けているのですから、その目的は公益にかなう事でなければなりません。

公益性を実現できるのであれば、上からもさらに援助はあり、事はスムーズに進むでしょう。

もし公共性を持てない場合は、考え直すべきです。

なぜならば、下っ端の身分ではもともと大きなことを実行するには力不足です。

みんなの支持や協力がなければ、初9(=First9)単独では無理なのです。


◇2nd 陰 62

「あなたが正しい立場で正しい態度ならば、皆が援助してくれることは、亀の甲で占いを十回やっても間違いない。あなたは正しい態度を永続させなさい。王が神を丁寧に祀るように、あなたも慎重になりなさい。そうであれば吉である。」

二爻 六二、或いは之を益す。十朋之亀も違う克(あた)わず。永貞なれば吉。王用って帝に享す。吉。 (六二、或益之。十朋之亀弗克違。永貞吉。王用亨于帝。吉。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は下卦(Lower trigram)の中心にいます。従順な性格(陰)で、謙虚に施しや援助を受ける立場(「中」位置)なので、62は対応している上の95の主君から大きな援助を受けます。

62は立場も態度も性格もすべて援助を受けるに相応しいので、みなが62に援助してくれることは、占うまでもなく明らかです。

62は非常に恵まれた運気にいるのですが、易経はここで、こうした態度をしっかり続けなさい、と忠告します。

王のように恵まれた運があるものでも天帝への祀りを慎重に行うのですから、62も敬虔で謙虚でありなさいと易経はいうのです。

それは62に集まる援助は外から施されるものなのであり、62が所有するものではないからです。

運が良くても、そうした謙虚な認識があるならば、吉であるとの判断なのです。


◇3rd 陰 63

「あなたは凶事があって、目上の公爵に援助を頼みに行くのだが、問題はないであろう。公正に噓をつかず誠実にお願いしなさい。あなたが目上の人にお願いする場合、玉のアクセサリーなどの贈り物を持参して礼儀を尽くすこと。」

三爻 六三、これに益すところ凶事に用いる、咎なし。中行に孚有り、公に告ぐるに圭(けい)をもってす。 (六三、益之用凶事、无咎。有孚中行、告公用圭。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は、下卦(Lower trigram)の責任者の立場ですが、「陰」なので力は足りません。

ここでは急なアクシデントに見舞われ、隣接する64、地位の高い公爵に、援助を願い出ます。

64は、陰で、従順に人の話を受け入れる性格ですから、63に援助するでしょう。

本来は<䷩ 益(えき="Augmenting")>が意味する施しは相手の善意で行われるものなのです。なのに今回は63が援助をお願いするのですから恥ずかしいことではあります。ですが、天災や隣国からの侵攻など突然の凶事においては問題はありません。

しかし条件が付けくわえられます。

63が援助を受ける目的が公正で、噓偽りがないこと。

さらには63は相手に対して礼儀を尽くすべきで、それは玉のアクセサリーを贈るなどの贈り物を用意すべきである、と。

これは頼み事をする際の根本的な心得です。

古代中国の春秋戦国時代には、こうした隣国への支援要請は頻繁に行われていたようです。


◇4th 陰 64

「彼は立派な人格の公爵。彼は頼みごとをしてくる相手が公正な目的を持っていて嘘をつかなければ、心よく援助する。あなたがもしこの公爵の援助を得られるならば、国を遷都するような大事業を行ってもよい。」

四爻 六四、中行あれば公に告げて従われん。用って依ることを為し国を遷すに利あり。 (六四、中行告公従。利用為依遷国。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64は、暗黒時代<䷋ 否(ひ="Obstruction")>において、下に「陽」を施すことで暗黒時代を<䷩ 益(えき="Augmenting")>の時代に導いたまさにその人です。

63は、この公爵(64)に援助を依頼するのですが、64は人を受け入れて施す心を持っていて、目的が公正で嘘がなく誠実であるならば、64は依頼を受け入れて援助を惜しまないでしょう。

63が国を遷すなどの大事業を行う際には、64を後見人として頼っていいでしょう。

ただし、63と64は、隣国同士というだけです。

対応関係にあるわけでもありません。

64は、「中」の位置にいませんし、君主でもありません。

63が64に援助の申し出をするにあたっては目的は公正でなければなりませんし、礼儀正しく手続きを踏まねばならぬのは言うまでもないことです。


◇5th 陽 95

「王に真心があり下に恵みを施す気持ちが厚いならば、大いに吉である。真心をもってあなたの下にいる人たちに施すならば、彼らもまたあなたに対して徳の恵みをくれる。」

五爻 九五、孚有りて恵心あり。問うことなくして元吉。孚有りて我に徳を恵まん。 (九五、有孚恵心。勿問元吉。有孚恵我徳。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


95は、「中」のバランス感覚をもった有能な君主です。

さらには下に95の意向に忠実に従う62がいて、対応関係にあります。

95は下に恵みを施す心が厚く、62と協力しながら公共政策で恵みを施しますので、こうした状況は疑うまでもなく大いに吉です。

この爻(こう=Line)を得た場合、大いに施しを行っていい結果を得られます。

施しを受けた者も、それをいい形で運用して国を富ませ、95の君主を盛り立ててくれるでしょう。

そうなったとき、<䷩ 益(えき="Augmenting")>の大きな目的は完成されます。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「彼は傲慢で施しを人に要求してばかりいる。誰も彼には施してくれないし、皆が彼を攻撃する。彼は利己的で一貫性がない。凶となる。」

上爻 上九、之を益すこと莫し。或いは之を撃つ。心を立つること恒なし。凶。 (上九、莫益之。或撃之。立心勿恒。凶。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上9(=Upper9)は、<䷩ 益(えき="Augmenting")>の究極点、その行き詰まりに位置しています。

彼は最上位の権威だけありますが、傲慢で自分勝手な人物。献金を要求し、また自分の利益のためにはころころと心変わりする不誠実極まりない人物です。

下で彼と対応関係にあるはずの63は、ここでは力もなく頼りにはなりません。

だいたい本来ならば彼は自分が下に施してやらねばならない立場にいるのに、逆に施しを要求しているのですから。

汚職政治家といったところでしょうか。

こういう人物には、本当に困っていてもだれも恵みは施しませんし、それどころか外からこれを討伐するものがやってくるでしょう。

当然、凶で悲惨な結果になるでしょう。

<䷩ 益(えき="Augmenting")>というのは、全体を良くする公共投資で、未来に対する投資なのです。

自分の利益だけを求めるのでは、すでに<䷩ 益(えき="Augmenting")>の道からは外れているのです。


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