NO.50 鼎(てい="Holding"): 王者の力量、君主論

鼎(てい="Holding")シンボル






鼎(てい="Holding")



6th:陽:上9(Upper9)
5th:陰:65
⚊ 4th:陽:94
3rd:陽:93
⚊ 2nd:陽:92
1st:陰:初6(First6)


※上6(Upper6)、65、94、93、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

構成の解説

上卦(Upper trigram)は、
「☲ 離(り:Li)」="Radiance":太陽・火・文明・付着する

下卦(Lower trigram)は、
「☱ 兌(だ:Dui)」="exchange":水が流れ込みたまっている様子、沢・悦び・口


下に木があり、その上で火が燃えている。

この卦(Hexagram)は全体の形そのものが、鼎(Ding)の形をしている。

鼎(Ding)は、中華世界では夏や殷の時代より王権の象徴であった。

卦(Hexagram)の内容としては、鼎(Ding)を象徴とした君主論、リーダー論である。

この卦(Hexagram)は、64卦(Hexagram)の中でも特にイメージに富んでおり、君主論を様々な角度から切り取って見せる。

鼎(Ding)に込められた象徴性は実に意味深長で、現代にも通じる多くの観点をもつ。

劉鼎。殷の末期の鼎(wikipedia「鼎」より写真の引用)
劉鼎。殷の末期の鼎。(wikipedia「鼎」より写真の引用)



卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたの願いは大いにかなう。すべてはうまくいく。」

卦辞 鼎、元吉。亨。 (鼎、元吉。亨。)

鼎(Ding)は、中華文明における王権の象徴です。

殷、周などの古代王権の時代から、王になったものは鼎(Ding)を鋳造して、それを用いて牛羊豚などの生贄を煮て神に捧げました。

また、王権は賢者を養う義務があると考えられていましたから、鼎(Ding)で食物を煮て賢者たちに提供するという意味合いもあったのです。

時には鼎(Ding)に法律や呪術的呪文を意味する文様が描かれることもありました。

私は台北市の故宮博物院で鼎(Ding)の展示を見たことがありますが、予想以上に巨大で重いものです。

鼎(Ding)の卦(Hexagram)は、鼎(Ding)を横から観た形に似ています。

もともと、鼎(Ding)の三脚の下に薪を入れて火を焚き、鼎(Ding)ので食物を煮たのです。

卦(Hexagram)の構成も、下卦(Lower trigram)が木、上卦(Upper trigram)が火で、鼎(Ding)の下で薪を焚いて食物を煮込むイメージとなっています。

鼎(Ding)には耳のような取っ手がつけられ、また目を象徴するような文様が刻まれています。

これは、よく人の話を聴き、物事を理解する聡明さを養うといった意味です。

鼎(Ding)の役割は、物を煮ることで、生で硬いものを食べれる状態に変成させる点にあります。

これは見聞きした物事をよく整理して理解するとか、緊張した情勢を解きほぐすとか、王者に必要な徳です。

この卦(Hexagram)は、もともとは<䷸ 巽(そん="Ground")>でした。


<巽(そん="Ground")>

⚋ ←64

64が、上に昇って、全体の形が鼎(Ding)になりました。

<鼎(てい="Holding")>

⚋ ←移動

柔軟性を意味する「陰」が上昇することで、中庸さと状況に応じた判断力が上がることを意味します。

また、「陰」が上昇することで、92と65が「陰」と「陽」で調和するようになり、願いがかなう形ができました。

この卦(Hexagram)が出た場合は、王に相応しい行動をとるならば、物事はうまくいき、大いに吉であるとの判断です。

あなたはリーダーとしての役割が求められる状況です。

あなたは皆の話をよく聴き、現状をよく観察して方向性を決め、制度やシステムをしっかり制定していく必要があります。

この卦(Hexagram)のキーワードは「柔軟性」です。

硬直したものの考え方ではいけません。

柔軟に考えて、全体の緊張状態を柔らげていくことが大切なのです。

柔軟性とは、中庸のことです。

固定観念を持たないで、何が起きても柔軟に対応してください。

また、鼎(Ding)は祭りに使うものですから、リーダーはセレモニーを通じて皆の意志を統率していく必要があります。

基本的に、いい見通しがある卦(Hexagram)ですが、中庸にリーダーシップを発揮してください。


◇ひと言アドバイス(象)

重い鼎(Ding)のようになりなさい

「鼎(Ding)の軽重を問われる」とは、リーダーの資質を人々から疑われる、という意味の成句です。

そもそも鼎(Ding)は重くなければ大きなものを入れて煮込むことはできず、用をなしません。

易経はアドバイスとして、リーダーは正しくその職務を果たし、天命を行いなさい、といいます。

正しくリーダーを務めるためには、あなたはみんなの中心にどっしり座っているべきです。

軽薄な動きはしてはなりません。

リーダーの責任は、物事を決定することです。

その決定が、自分が率いる人々の今後を左右するのです。

口数が少ないほうがリーダーの発言は重くなります。

リーダーの発言は、大きな影響力を持ちますから、あなたが気軽なことを言えば、人々は混乱します。

気安いことは言ってはなりません。

あなたは挙動に重さを感じさせなければ、みんなの信頼は得られませんし、天があなたに与えた命令を実施することは不可能です。

重い鼎(Ding)のようになってください。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

鼎(てい="Holding")

6th:陽:上9(Upper9)
5th:陰:65
⚊ 4th:陽:94
3rd:陽:93
⚊ 2nd:陽:92
1st:陰:初6(First6)


※上6(Upper6)、65、94、93、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「鼎(Ding)が足をさかさまにしてひっくり返っている。鼎(Ding)の底にあった古い汚物が出てしまうので、都合がよい。妾をつくって、子供を授かるようなもの。良くないことのように見えてかえって福がある。心配しなくていい。」

初爻 初六、鼎(かなえ)趾(あし)を顛(さかしま)にす。否を出すに利あり。妾(しょう)を得て其の子に以(およ)ぶ。咎(とが)なし。 (初六、鼎顛趾。利出否。得妾以其子。无咎。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初6(First6)はこの卦(Hexagram)の一番下、鼎(Ding)の足です。

初6(First6)は「陰」ですが、「陽」が入るべき最初の位置にいるので彼は不適切です。

初6(First6)には、上に対応する94がいます。

彼と94は「陰」と「陽」で調和するので、彼は不適切であっても道に外れてはおらず、物事がうまくいきます。

さて、この爻(Line)のイメージは、鼎(Ding)がさかさまにひっくり返ってしまっています。

これは思わぬアクシデントや失敗を表します。

一見、良くないように見えますが、このトラブルにより、鼎(Ding)の底にたまっていた前の古い供物がすべて出されることとなり、かえっていい結果となります。

最初の時期の失敗は、早い時期に前の時代の古い悪習がはっきりするので、改善していくならば将来には大きな利益につながります。


これはたとえば、浮気して妾を作り、その妾が子供を産んでしまうようなもの。

妾を作ることも、子供ができてしまうことも、不義のことではありますが、それにより後継ぎができるということは結果的にはめでたいことです。


この爻(Line)が出たら、あなたはなんらか思わぬアクシデントに見舞われるか、今現在見舞われているかもしれません。

そしてそれは、リーダーとしての立場そのものも揺らぐようなもので、致命的に思われてあなたは絶望するかもしれません。

しかし結果的には、このアクシデントはいい結果につながります。

あまり思い悩まなくてもいいでしょう。

必ず救いが現れ、その相手に従うことで今までよりもいい方向に道は開けます。

心配しないように。


◇2nd 陽 92

「鼎(Ding)に中身が入っている。私にあだを為す悪が近くにいて、彼は悪い病気を持っている。彼は、私をその病気に染まらせようとするが、できない。吉となる。」

二爻 九二、鼎(かなえ)に実(じつ)あり。我が仇(あだ)疾(やまい)あり。我に即(つ)く能わず。吉。 (九二、鼎有実。我仇有疾。不我能即。吉。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


92は「陽」です。

この卦(Hexagram)の二番目の位置は、鼎(Ding)の内側を表します。

92が「陽」なのは、この鼎(Ding)に中身が入っていることを示します。

鼎(Ding)は、神に捧げる供物を煮るためのものなので、鼎(Ding)に中身があれば、占う人間に誠実さや正義があることを意味します。

また92に対応する五番目の位置には65がいます。

92と65は、「陰」と「陽」で調和するので、物事がうまくいくことを示します。


92はすぐ下の初6(First6)と隣接しています。

この初6(First6)は、「陰(Yin)」で、悪い癖をもった悪人、質が悪く、92を悪い道に引き込もうと誘いをかけてきます。

しかし、92は誠実で正しい相手と付き合いますから、初6(First6)は92を誘惑できません。

そのようであれば吉となります。


あなたには誠実さと実力がありますが、あなたの能力は正しい相手との関りで生かされるべきです。

近くにいる悪人があなたを誘惑しようとしますが、正しい相手をあなたが選べば吉となります。


◇3rd 陽 93

「鼎(Ding)の耳がとれてしまう。鼎は使えなくなるので、あなたは道が塞がり、昇進できない。雉の美味な脂身を食べれない。しかし、ほどなく雨が降るだろうから後悔は消える。最終的には吉となるだろう。」

三爻 九三、鼎(かなえ)の耳革(あらた)まる、其の行(みち)塞(ふさ)がる。雉(きじ)の膏(あぶら)あれど食らわれず。方(まさ)に雨ふらんとして悔いを虧(か)く。終(つい)に吉なり。 (九三、鼎耳革、其行塞。雉膏不食。方雨虧悔。終吉。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


93は、鼎(Ding)の胴体部分にあたります。

胴体は、鼎(Ding)の耳がついている部分で、これは上からの援助を受けて仕事を遂行する実務責任者の立場を意味します。

積極的で能力も高い「陽」が、実行責任者の立場にあり、相応しい立場にいます。

ただし93は、性急なところがある人物です。

対応関係については、93と対応するのは上9(Upper9)ですが、彼らは「陽」同士なので対応関係が発生しません。

これは、上からの援助を失ったことを意味し、「鼎(Ding)の耳が外れてとれる」イメージとなります。

耳が外れれば鼎(Ding)は動かせませんから使えません。

上からの援助がないので、能力があっても彼は昇進できません。

彼が能力にふさわしい報酬を得られないのは、雉の脂身の美味しいところを食べれないようなものです。

しかし、上9(Upper9)は援助してくれませんが、65が93に関心を示しています。

どうも近いうちに65が援助を申し出てきそうです。

93が絶望している時に、65が援助を申し出て、彼らは「陰」と「陽」で調和するので恵みの雨が降るでしょう。

「陰」と「陽」で調和すると雨が降り、世界は潤されます。


あなたは援助者を失い、最初は絶望しますが、別な人から援助を受けて最終的にはいい状況になるでしょう


◇4th 陽 94

「鼎(Ding)の足が折れて転倒する。中に入っていた供え物はこぼれてしまう。体裁が非常に悪い。凶となる。」

四爻 九四、鼎(かなえ)足を折る、公の餗(こながき)を履(こぼ)す。其の形渥(あく)たり。凶。 (九四、鼎折足、覆公餗。其形渥。凶。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


「鼎(Ding)の足」とは初6(First6)の「陰(Yin)」です。

94は、本来は慎重に従順に事を進めなければならない管理職の立場です。

四番目の位置はそういう立場を意味します。

しかし、94は「陽」で、慎重さが欠けています。

彼は縁故がある初6(First6)に仕事を任せます。

初6(First6)は、「陰(Yin)」なので能力はありません。

94が彼を大抜擢しても、彼は仕事に失敗します。

これが「鼎(Ding)の足が折れる」という意味です。

94は初6(First6)を任命した責任があり、リーダーとしての資質を疑われますから、凶です。


鼎(Ding)は重くあるべきで、リーダーは慎重であるべきです。

あなたは、部下の能力や適性を考えず、能力のないものに仕事を任せようとしていますが、大変な災いが発生します。

あなたの判断は、あなただけではなく組織全体の将来に関わります。

判断において非情であることが、あなたに尊厳を与えます。

リーダーは軽々しくてはいけません。


◇5th 陰 65

「鼎(Ding)に黄色の耳があり、黄金の輪が耳には掛かっている。あなたは中庸の美徳を大事にすれば状況はよくなる。」

五爻 六五、鼎黄耳(こうじ)あり金鉉(きんげん)あり。貞(ただ)しきに利あり。 (六五、鼎黄耳金鉉。利貞。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


易経では、黄色や黄金色は、中庸で柔軟なバランス感覚を持っていることを意味する色です。

65は「陰」で、本来は「陽」が入るべき五番目の位置にいます。

五番目の位置は王を意味します。

65はミスマッチしているのですが、対応する二番目の位置に「陽」があるので、この場合は、下からの意見に耳を傾ける君主を意味することになります。

65がミスマッチしていることは問題になりません。

ここでは92が政策を実行する宰相を意味していて、65と92は「陰」と「陽」で調和します。

鼎(Ding)の黄金の耳は、部下の話をよく聞く美徳を意味し、黄金の耳にかかる黄金の輪は、優れた部下がいることを意味します。

65の政策は、有能な92によって理想的に実現されていきますので、めでたい状況です。

ただし、65は92の意見をよく聞かなければなりません。


あなたは、部下の話をしっかり聞いて、仕事を有能な部下に任せましょう。

鼎(Ding)のような威厳をもってください。

そうすれば、みんなに大きな利益があるでしょう。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「鼎(Ding)の両上に玉(Jade)の取っ手が付いている。大いに吉。大きな恩恵があるだろう。」

上爻 上九、鼎(かなえ)玉鉉(ぎょくげん)あり。大吉。利あらざるなし。 (上九、鼎玉鉉。大吉。无不利。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


鼎(Ding)は、一番上の口の両脇に、吊り上げるための取っ手が付いています。

上9(Upper9)は、この取っ手にあたります。

上9(Upper9)は「陽」、本来は「陰」がおとなしく入るべきこの位置に「陽」があることは、ミスマッチです。

しかし上9(Upper9)は属性がありません。

彼は相談役などの部外者を意味しますので、ミスマッチしていてもこの卦(Hexagram)においては問題がないのです。

この卦(Hexagram)では、65が調整型の君主です。

なので相談役や宰相は、積極的に65に意見を進言するものの方が適切です。

状況としては、この鼎(Ding)には玉(Jade)でできた取っ手がついている、というもの。

玉(Jade)は中華世界では最もめでたい鉱物です。

彼が、65にうるさく意見を述べることで、国は富み、みんなが最高の状況に至ります。


あなたは、リーダーを補佐する責任があります。

あなたのリーダーは周りの意見を尊重しますから、あなたはどんどん意見を伝えていきましょう。

あなたの意見でみんなが恩恵を受けます。

あなた自身がリーダーであるならば、有能な相談役の意見を積極的に活用してください。

そうすればすべてがうまくいくでしょう。


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