NO.7 師(し="Leading"):戦争、軍隊、軍事

 師(し="Leading")シンボル

師(し="Leading")



⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚋ 5th:陰:65
⚋ 4th:陰:64
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上6(Upper6)、65、64、63、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

師(し="Leading"):戦争、軍隊、軍事
師(し="Leading"):戦争、軍隊、軍事。


構成の解説

上卦(Upper trigram)
「☷ 坤(こん:Kun)」="Field":大地・従順さ・女性原理・消極・受動的

下卦(Lower trigram)
「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge":水・雨・雲・泉・危険・落とし穴


上卦(Upper trigram)の「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"は、大地を意味する。

下卦(Lower trigram)の「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge"は、水または危険を意味する。

大地の中に危険が潜む。農民の中に兵士が隠れている。

古代においては、兵隊とは農民であった。

農民は平時は大地を耕しているが、有事がくると武器をもって戦った。

五つの「陰」があり、92の指揮で動く。軍隊のイメージ。

<䷆ 師(し="Leading")>を表す漢字(Chinese character)は、現代では「教師」という意味で用いられる。

しかし元の意味は軍隊である。

軍隊、戦争といった状況をこの漢字(Chinese character)は表す。

軍を出すということは、非常の場合である。

この卦(Hexagram)では軍を動かさねばならぬ状況を考察する。

軍とはエナジーを目的に集中させていくことを意味するので、当てはめることができる状況は多い。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「軍を動かす際は、冷静で正しいやり方で行う必要がある。指導者が経験豊富ならば吉であり、戦争しても問題は起こらないだろう。」

卦辞 師は、貞。丈人なれば吉。咎なし。 (師、貞。丈人吉。无咎。)

軍隊は、民衆がひとつの目的のもと、一人のリーダーに従って行動します。

この卦(Hexagram)では、唯一の「陽」が92で、将軍を意味しています。

他の五つの「陰」は92に従います。

92は、下卦(Lower trigram)の中心にいます。

ここは本来は従順な「陰」が入る位置で、臣下の位置ですが、92は強い「陽」です。

62と対応している65が君主です。

65が、軍事司令官として92を任命します。

92は将軍として国家の全権を任され、他の五つの「陰(Yins)」たちを率いて非常事態に対応します。


軍を動かしていいのは、基本的には他国からの侵攻や、天災の発生などやむをえない非常事態が起こった場合に限られます。

軍は正しく使われる必要があります。

下卦(Lower trigram)の「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge"は、もともと危険を意味しています。

軍とは危険なものですから、動かすにはその大義名分は必要なのです。

軍隊を動かすタイミングもまた重要です。

それらの条件がそろうことが、天命に順うということです。

また、指揮官が無能では、兵たちはついていきません。

事態を早く解決しなければなりませんので、強力なリーダーシップを発揮し、しかも経験豊富でバランス感覚に富んだものを将軍に任命する必要があります。

ここでは、君主が、軍を率いる能力がある92に全権を委任します。

そして君主も非常時にあたっては92の指揮下に入ります。

いい指揮官を得た軍は力を発揮し、問題なく目的は達せられます。


軍は民衆を麻薬で毒して目的を達成する危険な道です。

戦いに勝って初めて軍は肯定されます。

軍事行動は、国家に緊張や負荷をかけます。

しなくてよいならば、戦争はしないほうがいいのです。

長い時間、戦争を行うことはできませんし、また目的を達することができなければ、疲弊し滅亡にもつながります。

戦争でなくとも、組織がなにかの事業に対して組織をあげて行動する際は、適したリーダーの任命をはじめ、ほぼ同じことが当てはまります。


◇ひと言アドバイス(象)

普段から民を豊かにするために努力しよう

軍隊は、普段は農村に暮らす農民を動員します。

非常時に軍を動かすためには、農民たちが招集に応じるだけの余裕がなければなりません。

普段から君主が農民たちの希望を受け入れていれば、農民たちは非常時に軍隊で働くでしょう。

君主はまた、農民たちを豊かにする政策を行うことです。

それこそが、軍事力を蓄えることに他ならないのです。

会社組織でもこれは同じことです。

劉邦の漢が統一を成し遂げたのは、領地である陝西の地の領国経営に力を入れ、住民を富ませていたため、軍の補給に困ることがなかったのも大きな一因でした。

農民である兵たちの生活が豊かでなければ、戦争とは継続が難しいものです。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

師(し="Leading")
⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚋ 5th:陰:65
⚋ 4th:陰:64
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上6(Upper6)、65、64、63、92、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「戦争を始めるにあたっては、軍隊に規律を徹底させるべきだ。軍隊に規律がなければ、凶となる。」

初爻 初六、師(いくさ)出(い)ずるに律をもってす。臧(よ)からざれば凶。 (初六、師出以律。否臧凶。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初6(First6)は戦争の出発点にいます。

民衆が軍隊として行動する場合、まずは規律を徹底させねばなりません。

指揮系統がしっかりしていなければ軍は機能的に行動できません。

しっかりした規律と命令系統がない軍隊は戦争に勝てるわけがありません。

なので規律がない軍隊は凶なのです。

これは会社組織にも当てはまります。


◇2nd 陽 92

「軍隊は彼のもとに統率されている。吉である。彼は王から三度も褒美をいただく。」

二爻 九二、師中にあり。吉。咎なし。王三たび命を錫う。 (九二、在師中。吉。无咎。王三錫命。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


92は、君主である65から司令官として任命された将軍です。

彼は有能で剛毅です。二番目の位置にいるので中庸、すぐれた将軍です。

軍隊はよく統率されていて、戦いにも勝利しますから吉です。

こうした状況は、彼が君主である65から信頼されているからです。

65は、たびたび92をねぎらい、褒美を与えます。

戦争に勝ってすべての国を服属させるために、君主には将軍の協力が必要です。

なので君主は、高い報酬で将軍をねぎらいます。

君主は、彼自らが戦争をせずとも、このような裏での配慮をすべきです。

漢の高祖、劉邦は、項羽との最終決戦を前に、大将軍である韓信に全権を与えたばかりか、斉王の地位をも与えました。

韓信の全面協力により、劉邦は戦乱時代を終わらせ中国の統一を成し遂げます。

能力ある将軍には、権限だけにとどまらず相応しい恩恵を与えることが重要なのです。

それがトップの仕事です。


◇3rd 陰 63

「彼は、能力もないのに隊長に任じられた。戦争に敗れるばかりでなく彼自身も戦死し死体となって運ばれるだろう。凶である。」

三爻 六三、師(いくさ)或いは尸(かばね)を輿(にな)う。凶。 (六三、師或輿尸。凶。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は「陰」、指揮する能力がありません。三番目の位置は中隊長の階級。

63は能力がないのに隊長に任命されました。

彼は中庸ではなく、冷静な判断力もありません。

戦争になった場合、彼の指揮する部隊は敗れるばかりか、彼自身も戦死するでしょう。最悪の結果となります。


この爻(Line)が出た場合、隊長の選任が不適切です。

あなたは人選を改めるべきです。


◇4th 陰 64

「戦にあたり、彼の部隊は攻めやすく安全な左翼の高地に布陣する。問題ない。」

四爻 六四、師(いくさ)左に次(やど)る。咎なし。 (六四、師左次。无咎。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64も「陰」で、無能です。

しかし彼は、「陰」が入るべき四番目の位置にいます。

彼は彼自らの能力や立場をよく心得ています。

戦争にあたっても、彼は戦功を急がず、左翼の高地に自分の部隊をとどめて、積極的には攻め込みません。

彼は大きな戦功はありませんが、敗れることもないので問題はないでしょう。


この爻(Line)を得たら、あなたは積極的に物事を進めるには力不足です。

ですが、身の程に合った行動をするならば、敗れて討ち死にすることは回避できます。


◇ 5th 陰 65

「彼は狩りに出て獲物を得る。彼は敵に先に攻撃させてから大義名分をもって攻め込むので戦争に勝つ。大きな問題はない。ところで彼はすでに長子を司令官に任じている。にもかかわらず彼はその弟たちも司令官に任命しようとしている。弟たちは敗れて死体を運んでくることとなる。この場合は大義名分はあっても、結果は凶である。」

五爻 六五、田(かり)して禽(えもの)あり、執言に利あり。咎なし。長子師(いくさ)を帥(ひき)ゆ、弟子尸(かばね)を輿(にな)う。貞なるも凶。 (六五、田有禽、利執言。无咎。長子帥師、弟子輿尸。貞凶。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は「陰」です。戦闘能力はありませんが、彼は状況判断できる優れた君主です。

彼は大義名分を得て戦争をすすめますから、適切で問題ない進め方です。

狩りに出て獲物を得るように、戦争をうまく進めることができます。

65はすでに長男である92を将軍に任命しています。

ところが次男や三男もいるので、65は次男や三男も将軍に任命しようとします。

息子たち全員で力を合わせることを65は期待します。

息子たちを平等に扱うという観点からすれば正しい方針です。

しかし、もし次男と三男も将軍に任命してしまえば、軍隊は統率が損なわれます。

下の息子たちは敗れて戦死者を車にのせて戻ってくることになります。


戦争では一人の将軍に権限を集中させるべきです。

権限の分散は、戦争ではマイナスに作用します。

重大な戦いほど、リーダーシップの集中は重要です。

会社組織などでも同じです。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「戦争の論功行賞が行われる。戦功があったものには、新たに国を開かせたり、貴族としての地位を与えて世襲させる。ただし悪人に地位を与えてはならない。」

上爻 上六、大君命あり。国を開き家を承(う)く。小人は用うるなかれ。 (上六、大君有命。開国承家。小人勿用。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は、通常の地位ではなく、国家元首のような立場です。

上6(Upper6)は戦争の終極点にいますので、戦いはすでに終結し、彼は論功行賞を行います。

論功行賞は正しく行われねばなりません。

あるものは新しく国を開かせ、諸侯に任命されます。

あるものは、名族として貴族の地位を授けられ、世襲をゆるされます。

ただしここで、悪人のたぐいは、地位を与えてはなりません。

上6(Upper6)が悪人に地位や権限を与えると、やがては国を乱す元凶ともなるからです。

しかし、悪人の功績に対してなにも与えないのはまた問題です。

こういう場合、悪人には領地や地位ではなく一時報奨金をたくさん与えることでねぎらうのが適切です。


会社組織でも同じです。


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