NO.33 遯(とん="Retiring"):隠遁、退避、逃避

 

遯(とん="Retiring")シンボル






遯(とん="Retiring")



⚊ 6th:陽:上9(Upper9)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚊ 3rd:陽:93
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、95、94、93、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

遯(とん="Retiring"):隠遁、退避、逃避
遯(とん="Retiring"):隠遁、退避、逃避。山の上に天がある。

構成の解説

上卦(Upper trigram)
「☰ 乾(けん:Qian)」="Force":天・始まりのエネルギー・男性原理・積極・能動的

下卦(Lower trigram)
「☶ 艮(ごん:Gen)」="Bound":山・障壁・行き止まり

山の上に、天があるイメージ。

この卦(Hexagram)は、退避する、または引退することを意味する。

山は高い。だが、その上にある天の高さはすべてを超越している。

<䷠ 遯(とん="Retiring")>は、日常の次元を超えた隠遁を意味する。

全体からすれば、「陰」が下から発生し、「陽」を侵食して上に昇ってきている。

いわゆる消息卦(Transition Hexagram)の一つである。

この卦(Hexagram)は、困難や混乱から逃げて隠遁する状況について述べている。

通常の人間界とは距離を置いた、道教的な意味での「隠遁」を説明する。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたは隠遁することで願いが実現する。小悪人の場合は、自分の在り方が果たして正しいか、今一度考え直せば恩恵を受ける。」

卦辞 遯、亨る。小は貞(ただ)しきに利あり。 (遯、亨。小利貞。)

この卦(Hexagram)は、下に発生した「陰」が、だんだん上がってきて、二番目の位置まできています。

下のほうから「陰」がどんどん伸びていく形、あるいは下のほうから「陽」がどんどん伸びていく形をもった卦(Hexagram)のことを、「消息卦(Transition Hexagram)」といいます。

「陽」は正義、道理、善人のイメージ。

「陰」は不義、不正、悪人のイメージ。


この卦(Hexagram)では、上の中心である五番目の位置には「陽」が、下の中心である二番目の位置には「陰」があります。

「陰」と「陽」が和合する関係にありますので、願い事がいい方向に実現する形があります。

しかし、まだ勢力はそれほどではないといえ、下に発生した邪悪の勢いは、あきらかにこれから本格的に伸びていくでしょう。

邪悪に対抗しようとするのは、伸びてくるものに立ち向かうわけなので、逆風の中で船を前に進ませようとするようなものです。

95の君主は、邪悪の先鋒の動きに対応して、自分は引退し、隠遁する道を選択します。

戦わずに退くことで、この難局に対応しようとするのです。

対立した難しい状況というのは、立ち向かえばすべて解決するというものでもありません。

解決に多大なエネルギーを使うのがはっきりしている場合は、戦わず退くというのも賢明な方法なのです。

あなたが95の立場なら、退いて隠遁すれば、戦力を温存し、また打って出る機会もあるでしょう。温存したエネルギーを違う形で用いることもできるのです。そうした意味で「うまくいくだろう」と易経は判断します。

一方で、62は、勢力を拡大してきている邪悪側の先鋒です。

しかし62は下卦(Lower trigram)の中心にいて中庸です。

彼もまた時局を見る柔軟さを持っています。

「陰」が増えていくのは、止むにやまれぬ面があるのです。

あなたが62の立場なら、君主に歯向かうことは秩序を乱す邪悪の道です。今はあなたの勢力が拡大しているからと言って、傲慢にならずに、その行動に正当性があるかどうかを改めて考えてみなさい、と易経は忠告します。

62も、隠遁することで事態を収拾させる可能性があります。

95と62の両方が互いに退いて隠遁するならば、不毛な決戦は避けることができるのです。


◇ひと言アドバイス(象)

孤高に、自分の道を完成させなさい

この卦(Hexagram)は、天の下に山がありますが、その間には大きな隔たりがあって、山はとうてい天の想いを理解することなどできません。

このように自分と相手との間に圧倒的な隔たりがある場合、上の立場にあるものは、厳然とした態度で、もはや下に理解を求めるのではなく、接触しないようにすべきです。

接触しても誤解を生むだけで、不毛だからです。

一人孤高に自分に厳しくすることで、邪魔されず自分の道を完成させようとしたほうがよいでしょう。

相互理解が難しい状況は、実際にあるもので、めずらしいことでもありません。

あなたと分かり合えない人たちと付き合わぬのも一つの重要な生き方です。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

遯(とん="Retiring")
⚊ 6th:陽:上9(Upper9)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚊ 3rd:陽:93
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、95、94、93、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「あなたは逃げ遅れて最後尾にいる。すでに命が危ういほど危険な状況だ。あなたは決して積極的に行動しないで、状況が変わるのを待つべきである。」

初爻 初六、遯尾。厲うし。用って往くところあるなかれ。 (初六、遯尾。厲。勿用有攸往。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


逃避する時期を示すこの卦(Hexagram)のいちばん尻尾の先が初6(First6)で、それは逃げ遅れたものを意味します。

初6(First6)は、一番目の位置にいます。

彼は立場上は積極的な行動をもとめられています。

積極的に逃げなければならなかったのですが、初6(First6)は「陰」、力がありませんでした。

彼は逃げ遅れて混乱に巻き込まれてしまっています。

非常に危険な状況です。

かくなる上は、おとなしくして動かず、一切行動しない意味での隠遁を実行するしかありません。

情勢が変わるのを待つしかありません。

待つというのも一種の隠遁です。


◇2nd 陰 62

「隠遁を実行しようとする彼の意志は、黄牛の皮革を強く巻いて固めたように堅い。彼の隠遁の意志をあらためさせることはできない。」

二爻 六二、之を執るに黄牛之革を用ってす。之を説くに勝るなし。 (六二、執之用黄牛之革。莫之勝説。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は「陰」ですが、彼は「陰」が入るべき二番目の位置に正しく入っています。

彼は中庸で、おとなしく主君に従う徳を持っています。

彼は主君である95とも、「陰」と「陽」の対応関係があります。

62は君主との関係に配慮して、自ら引退の意志を固めました。

君主とは考え方が対立するので、世を乱さぬために隠遁の意志を固めたのです。

これは社長の経営方針に対立する営業部長が、会社に混乱を招かぬために引退する、といった状況です。

その意志の堅いことは、「黄牛の皮革で彼の体をぐるぐる巻きにしたような状況」で、誰も彼の意志を変えることができません。

黄牛は、従順さの象徴です。

世界の混乱を回避するために隠遁するのは、素晴らしいことです。


◇3rd 陽 93

「あなたは隠遁すべき時なのに、なかなか完全には隠遁できない。疲労困憊して病気にかかり、危険である。あなたは召使いを雇い、妾を雇いなさい。そうすれば吉である。」

三爻 九三、繋遯(けいとん)す。疾(やまい)有り厲うし。臣妾(しんしょう)を畜(やしな)うときは吉。 (九三、繋遯。有疾厲。畜臣妾吉。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


93は、三番目の位置にいます。この場所は彼が積極的に行動すべき位置です。しかも彼は「陽」です。隠遁とは正反対の性格です。

彼はあまりに忙しく、体調をすでに崩し病気になりかかっています。引退したほうが望ましい状況です。

しかし、下に二つの「陰」がいます。

彼は彼らとの関りを断ち切れずにいます。

「俺はもう隠遁する」と93は言いつつ、ついつい彼らと、公私含めて付き合ってしまいます。

仕事も人付き合いも93は大好きで、隠遁ができません。

すでに体調を崩していますから、そのままでは良くないことが起こります。

世間との関係を彼がどうしても断ち切れないならば、「契約関係」にすること。

たとえば使用人を雇うとか、愛人を作るとか、契約関係で世間と付き合うならば、彼は問題はありません。

非常に生々しい処世術ですが、こういうところが易経の面白いところです。


◇4th 陽 94

「彼は誘いがあっても断り、隠遁する。これは賢者の道であり吉である。中途半端な人はこうした行動はとれず、恥をかく。」

四爻 九四、好遯す。君子は吉、小人は否。 (九四、好遯。君子吉、小人否。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


94は「陽」です。

彼がいる場所は、上卦(Upper trigram)の最下位。

四番目の位置なので、彼は積極的に動いてはならない立場です。

状況としては、94には古い仲間の初6(First6)がいます。

初6(First6)は94に一緒にやろうと誘いをかけています。

94が君子の場合、彼が初6(First6)からの誘惑をきっぱり断ち切るって隠遁すれば吉となります。

しかし、もし94が君子でない場合、初6(First6)からの誘いに応じてしまい、行き詰ります。

<䷠ 遯(とん="Retiring")>は、人付き合いをしないで自分を高めるべき時期を意味しています。

どう行動するか、よく考えましょう。


◇5th 陽 95

「彼は、周囲の同意も得てめでたく隠遁する。完全に世間とのしがらみを絶つなら吉。」

五爻 九五、嘉遯(かとん)す。貞しければ吉。 (九五、嘉遯。貞吉。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


95は君主です。

彼は「陽」が入るべき五番目の位置にいます。

力があって、中庸な君主です。

下には対応関係がある62の「陰」がいます。

62もまた「中庸」を意味する二番目の位置にいます。

62は「陰」なので、彼は95と正しい対応関係にある家臣です。

さて、95は引退を表明します。

62は95の気持ちを理解し、引退を承諾します。

なので95は、いい状況で引退することができます。

しかし、95は地位の高い人物なので、しがらみから離れるのは簡単ではありません。

彼は地位を引退しても相談役とか会長として引き続き関与を求められます。

それに応じてしまえば、隠遁できませんから、彼はそういう誘いを一切断り、隠遁の意志を実行できるならば、吉です。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「彼は、悠々自適に隠遁する一人の自由人。間違いなく恩恵がある。」

上爻 上九、肥遯(ひとん)す。利あらざるなし。 (上九、肥遯。无不利。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


一番上にある六番目の位置は、社会的な立場がありません。

上9(Upper9)に対応するのは93ですが、彼らはいずれも「陽」です。対応関係は発生しません。

上9(Upper9)は「陽」です。

彼は世間とは関わらずに、楽しく隠遁しています。

隠遁というと、暗いイメージがあります。

しかし上9(Upper9)は、楽しく暮らす一人の自由人です。

彼はエネルギーを損失することなく、自由になにか創造的な活動ができそうです。

道教では、こういう自由人の在り方を理想としています。

世間で評価されるだけが人間の在り方ではないのです。


0 件のコメント :