NO.41 損(そん="Diminishing"):下から減らす、徴税、加減調節

損(そん="Diminishing")シンボル









損(そん="Diminishing")


⚊ 6th::上9(Upper9)
⚋ 5th::65
⚋ 4th::64
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上9(Upper6)、65、64、63、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

損(そん="Diminishing"):下から減らす、徴税、加減調節
損(そん="Diminishing"):下から減らす、徴税、加減調節


構成の解説

上卦(Upper trigram)
「☶ 艮(ごん:Gen)」="Bound":山・障壁・行き止まり

下卦(Lower trigram)
「☱ 兌(だ:Dui)」="exchange":水が流れ込みたまっている様子、沢・悦び・口


下に沢があって水をたたえているのは、上にある山に、下卦(Lower trigram)が「陽」を一つ渡したからである。

「下から減らす」ので「課税する」というイメージ。

<䷨ 損(そん="Diminishing")>は、<䷊ 泰(たい= "Pervading")>からきた、と易経はいう。

<䷊ 泰(たい= "Pervading")>は、このような形。


<䷊ 泰(たい= "Pervading")>







ここから、下の「陽」を一つ減らして上に増すと、


<䷨ 損(そん="Diminishing")>






となるということ。

情勢が安泰になったら、さらなる発展のために下の民衆から少し減らして、全体のために利用していかねばならない。だから、税金を増やすという意味になり、いろいろな状況が論じられる。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたに誠実さや大義があれば、大いにめでたい。問題も起こらない。正しく行動するなら、考えることを実行に移して恩恵がある。祭祀については、敬虔であるならば、供え物が二皿だけでもよかろう。」

卦辞 損、孚あり。元いに吉。咎なし。貞にすべし。往くところあるに利あり。曷(なに)をか之れ用いん。二簋(き)を用って亨(まつ)るべし。 (損、有孚。元吉。无咎。可貞。利有攸往。曷之用。二簋可用亨。)

<䷨ 損(そん="Diminishing")>は、下の者から減らして、それを上の者に増すことを意味します。

国家で言えば、民衆から徴税して国家予算を作ることです。

むろん、状況が安定し、民衆に余裕があることが前提です。

その上で、全体の状況をさらに良くするために、民衆全員から少しずつ減らして、国家の財政基盤を増やし、全体のためになることを実行できるようにするのです。

易経にはこれとは対照的に、上から減らして下に渡すことを意味する<䷩ 益(えき="Augmenting")>という卦(Hexagram)もあります。

こちらは交付金とか公共事業を民衆に施す、という意味合いを持ちます。

これは<䷨ 損(そん="Diminishing")>とはコントラストをなします。


さて、増税を行うには、正当な理由がなければなりません。

それが、一部の為政者のふところを肥やす、汚職的な目的では民衆は納得しません。

国家としての大義があってはじめて増税は許されることです。

なので易経は、「正当な理由があるならば、大いに吉である」とします。

公共性という点で大義も目的もあって初めて、国家は増税を実行していい結果となるのだといいます。


そのように、国家財政が苦しいとき、神への祀りとか儀礼に関することはどう考えればいいのか?と、後半は少し観点が変わります。

儀礼は礼儀として必要でしょうが、財政立て直しなどの場合においては、これもまた減らしてもいいことです。

儀礼が財政を増やしてくれるわけではないのですから。

心のうちに本当の神を敬う心があるならば、神を祀る儀礼の予算を縮小してもよいと易経は説きます。

そうであるならば、わずか二皿しか神への捧げものを用意できなくても、神への誠意は十分通ると易経は言います。


<䷨ 損(そん="Diminishing")>は家庭や個人にも当てはめることができます。

下から徴収できない場合もあります。

状況を適切に判断してください。


◇ひと言アドバイス(象)

自分の欲を抑えて公平で客観的な判断をしよう

個人のこととして<䷨ 損(そん="Diminishing")>を当てはめる場合、自分の在り方の中に、減らすべきことがないかを考えて反省することが大切です。

たとえば、なにか家のことで必要な出費をしなければならぬような場合、あなたが普段の買い物を控えてお金を貯めることは<䷨ 損(そん="Diminishing")>に該当します。

なにか重要なことをやるのに時間が必要な場合、テレビを見ている時間を削ってそちらにあてるのも<䷨ 損(そん="Diminishing")>に該当します。

腹を立てることを抑えて、有益な判断ができるようにするのも<䷨ 損(そん="Diminishing")>の正しいやり方のうちに入ります。

人の上に立つ者の場合は、公共性を高めるためには、自分の欲を抑えて公平で客観的な判断ができなければなりません。

特に、増税というような場合、為政者が汚職で資産を増やすような状況では、税を課される民衆は誰も納得はしないのです。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

損(そん="Diminishing")
⚊ 6th::上9(Upper9)
⚋ 5th::65
⚋ 4th::64
⚋ 3rd:陰:63
⚊ 2nd:陽:92
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上9(Upper6)、65、64、63、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)

「彼は仕事を中断し、すみやかに仲間を助けに行く。問題ない。彼は自分の能力を減らして相手に分け与えているからである。」

初爻 初九、事を巳《や》めて遄《すみ》やかに往く、咎なし。酌《く》みて之を損す。 (初九、巳事遄往、无咎。酌損之。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初9(First9)は「陽」で、能力が高い人物を意味します。

上役として64が対応関係にいますが、64は「陰(Yin)」、仕事ができなくて困っています。

そこで初9(First9)は、自分がしていた仕事をやめて、急いで64を助けに行きます。

彼は相手を思いやり、自分の能力と時間を減らして相手に分け与えました。

高尚な志しのもとに、<䷨ 損(そん="Diminishing")>を実行しているので、彼はいい状況を作り出せるでしょう。


自分の能力を減らして相手に分け与える意味での<䷨ 損(そん="Diminishing")>です。


◇2nd 陽 92

「あなたは状況にふさわしく行動すれば恩恵を受ける。相手を助けに行けば凶である。あえて助けないことであなたは彼に考えさせるべきである。」

二爻 九二、貞しきに利あり。征けば凶。損せずして之を益す。 (九二、利貞。征凶。弗損益之。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


92は、能力ある「陽」です。

彼は二番目の位置にいるので中庸です。

92にも無能な上役である65が対応関係でいます。

初9(First9)のように65を助けてやればよさそうなものですが、65は、上卦(Upper trigram)の中心、つまり君主、会社で言えば社長です。

この社長は、無能でいつも部下からの助けに依存していて、部下から能力や時間を奪っています。

彼は部下に迷惑をかけることが当たり前になっているのです。

そこで、易経は、「今回はよく考えて適切に判断しなさいよ。いつものように助けに行けば凶ですよ」と言います。


君主というものは、下に奉仕させることが当たり前になってしまってはいけません。

苦労して考えることでこの無能な君主は成長しなければなりません。

なので、「あえて今回は65を助けてはいけない」と易経は言っています。


困っている相手を助けないということが、彼に考えさせ、成長させるという意味で、彼の利益となる場合はあるのです。

なので「助けないことで助ける」というのがこの爻(Line)の教訓となるのです。


こうしたバランス感覚が全体をよくするために必要だと易経は考えるわけです。


◇3rd 陰 63

「三人で連れ立って行けば、三人の中で誰と誰が組むか互いに判断がつかず、うまくいかなくなる。一人いなくなれば、残った二人は自然に友となる。」

三爻 六三、三人行けば、則って一人を損す。一人行けば、則って其の友を得る。 (六三、三人行、則損一人。一人行、則得其友。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


もともとこの三番目の位置にいた「陽」が一番上の位置へ移動したことで、三つとも「陽」であった下卦(Lower trigram)が「☱ 兌(だ:Dui)」="exchange"に変わり、卦(Hexagram)の形が<䷨ 損(そん="Diminishing")>となりました。

三人いたものが一人減って二人になるのは、悪い状況ではありません。

三人で行動しようとすると、三人の中で誰と誰が組むか?が問題となります。互いに相手を疑うようになってしまうから、うまくいきません。

一人いなくなり、二人で行動することになれば、この二人は自然と友人同士になります。


人数が多ければよいというものではなく、数を減らしたほうがうまく行くのは、人間関係においてはよくあることです。

組織も人数が多ければうまくいくわけではなく、時には数を減らしたほうがはるかにうまくいく場合もあるのです。


◇4th 陰 64

「あなたは、患っている病気を治すべきである。早めに対処するならば、喜ばしい。問題はなくなる。」

四爻 六四、其の疾(やまい)を損す。使(も)し遄(すみやか)かなれば喜びあり。咎なし。 (六四、損其疾。使遄有喜。无咎。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64は「陰」です。

能力がない人間が、「陰」のいるべき四番目の位置にいます。

ここでは病人が日陰にいるようなイメージで捉えます。

64と対応関係にある初9(First9)は、能力ある「陽」です。

64はいつも初9(First9)に助けてもらうのが当たり前のようになっています。

64は自分で物事を考えずに他者の援助に依存しているので、一種の病気にかかっています。

早く病気を治す努力をすることが必要です。

病気が治れば、喜びもあります。

彼が初9(First9)に頼る癖を直せば状況は良くなるし、問題も起こらなくなるでしょう。

64は、「他者に依存する」という精神的な病気を意味していますが、このような良くない考え方を減らすことは、公共の視点からも重要です。


注意!

実際に病気にかかっている人が占ってこの爻(Line)が出た場合は、早く病気を治癒させなさい、という意味になります。


◇5th 陰 65

「誰もがみなあなたを助け、協力する。占うまでもない。大いに吉である。天の助けもある。」

五爻 六五、或いは之を益す。十朋之亀(じっぽうのき)も違(たが)う克(あた)わず。元いに吉。 (六五、或益之。十朋之亀弗克違。元吉。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は「陰」で力はありません。

しかし彼は中庸の美徳を持った君主です。

65に対応する92は能力ある宰相ですし、下の者がみな、自然な形で自分たちの貴重な時間や労力を65に提供し、65を助け、協力します。

みなが自発的に自分たちの能力や時間を君主に提供するという理想的な状況です。

こういうことが起こるのは、65が無私で皆の意見をよく聞く徳を持っているからですが、天の助けもあるからです。

大いに吉でしょう。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「彼は課税せず、国民に施すならば問題ない。彼の立場は正しく、タイミングに従っているから、大いにめでたい。すべての国民が彼を支持して服従し、天下は皆が家族になる。」

上爻 上九、損せずして之を益す。咎なし。貞しければ吉。往くところ有るに利あり。臣を得るに家なし。 (上九、弗損益之。无咎。貞吉。利有攸往。得臣无家。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上9(Upper9)は、<䷨ 損(そん="Diminishing")>の終極点にいます。

彼は「陽」で、最上位にいます。悠々自適の立場です。

もはや下から徴収するのではなく、自分の余裕を下に分け与えます。

この行いは<䷨ 損(そん="Diminishing")>の主題とは矛盾するように見えます。

ですが、上9(Upper9)のように富がある人が下から徴収したらおかしいので、彼が下に富を分け与えることはバランス感覚として正しいのです。

すべての人にとってめでたい結果となります。

すべての人が公共のために力を合わせる理想的な状況になります。

皆が無私に協力し合うならば、家といった個々の利害はなくなり、皆が家族となる理想的社会が成立します。


これは易経および道教や儒教の理想です。



0 件のコメント :