NO.35 晋(しん="Prospering"):昇進、出世の条件

晉(しん="Prospering")シンボル









晉(しん="Prospering")




⚊ 6th:陽:上9(Upper9)

⚋ 5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

⚋ 3rd:陰:63

⚋ 2nd:陰:62

⚋ 1st:陰:初6(First6)


※上9(Upper9)、65、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

晋(しん="Prospering"):昇進、出世の条件
晋(しん="Prospering"):昇進、出世の条件


構成の解説

上卦(Upper trigram)は、
「☲ 離(り:Li)」="Radiance":太陽・火・文明・付着する

下卦(Lower trigram)は、
「☷ 坤(こん:Kun)」="Field":大地・従順さ・女性原理・消極・受動的


大地の上に、太陽が輝くという、非常にめでたいイメージ。

「☲ 離(り:Li)」="Radiance"は、文明の叡智をも意味する。

「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"は従順の意味。

文明に対しすべての民衆が従順に順う。

<䷢ 晋(しん="Prospering")>とは、前進することを意味する。

臣下が従順に王の前に進み、謁見を賜うイメージ。

64卦のなかでもめでたい表象の一つである。



卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「康侯(Kāng hóu)が君主に大きな評価を受けて、褒美の馬をたくさん頂戴し、昼間から三回も謁見を許される。」

卦辞 晉、康侯(こうこう)の用って馬を錫(たま)うこと蕃庶(はんしょ)たり、昼日(ちゅうじつ)に三たび接(まじ)わる。 (晉、康侯用錫馬蕃庶、昼日三接。)

この卦(Hexagram)は、「進む」という意味です。

上に太陽のように聡明な君主がいて、輝きを放っています。

また「☲ 離(り:Li)」="Radiance"には、火が燃え付くという意味があり、この君主の美徳が臣民に燃え広がります。

下の「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"は、臣民がひれ伏しているイメージ。

全体的な形として、臣民が王の前でひれ伏しているイメージです。

臣民は、王から褒美を与えられるでしょうから、地位の昇進も意味します。

「康侯(Kāng hóu)が君主に大きな評価を受けて、褒美の馬をたくさん頂戴する」というのは、易経においては他の卦(Hexagram)においても見られるフレーズです。

「康侯(Kāng hóu)※」とは周の武王の弟、康叔(Kāng shū)です。

周が殷を打倒した時に、彼には大きな功績がありました。

彼は武王から評価され、領地を与えられます。

なので、このフレーズが出る場合は、あなたは上から評価され、昇進するチャンスがあることを意味します。

ここではさらに、「彼は昼間から三回も謁見を許される。」と追記されます。

あなたが今回受ける評価は、かなり大きいものとなりそうです。

あなたが商店などを経営しているとすれば、お客様から大きな支持を得て、大きな売り上げが上がることでしょう。

こうしたチャンスは、めったにありません。

チャンスを得ることができるよう、慎重に仕事していきましょう。


※康侯(Kāng hóu)

日本語では、「康侯(Koukou)」と読みます。

彼は周の武王の弟です。

周が殷を打倒する際、功績があった人物です。

しかし、易経は武王の父親である文王が書いたことになっており、周が殷を打倒した時、文王はすでに亡くなっています。

なので、儒教では「康侯(Kāng hóu)」を固有名詞ではなく、一般名詞とし、「有力な家臣」という意味で用います。

筆者は、「康侯(Kāng hóu)」は武王の弟でいいと思っていますし、文王が易経の作者だとは思っていません。

そのことは、ブログ記事でも書いておきます。

以上は余談です。


◇ひと言アドバイス(象)

みんなのために知識や能力を解放しよう

太陽が地上に昇る、というのがこの卦(Hexagram)のイメージです。

地上のすべての生命は、太陽の恩恵を受けていますが、太陽は無償で恵みを与えてくれています。

易経では、これにならって君子はその明徳を明らかにするがよい、とアドバイスします。

自分が持っている知識や能力を公共のために無償で提供しなさい、という意味です。


現代は知識や教養も金で売り買いする風潮が目立ちます。

しかし、知識や能力や技術は社会や世界のために解放されるべきです。

あなたが組織内にいるならば、自分の知っていることを、無条件で周りの人に伝えていくべきです。

公共性が高ければ、あなたは信頼されます。

この卦(Hexagram)は昇進を意味していますが、昇進は本来は公共性の有無で評価が決まるものです。

皆の役に立ちましょう。

どんなに知識や能力を持っていても、人間はみないずれ死ぬのですから。

あなたの知識や経験を皆に伝えるのはあなたの人間としての義務なのです。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

晉(しん="Prospering")

⚊ 6th:陽:上9(Upper9)

⚋ 5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

⚋ 3rd:陰:63

⚋ 2nd:陰:62

⚋ 1st:陰:初6(First6)


※上9(Upper9)、65、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「あなたは、出世しようと前進するが、希望を否定されて帰ってくる。あなたが正しければ吉となる。あなたは誠意や能力を人々に信じてもらえない。だが、運命を受け入れて待ちなさい。問題は起こらない。」

初爻 初六、晉如(しんじょ)たり、摧如(さいじょ)たり。貞(ただ)しければ吉。孚(まこと)とせらるるなきも、裕かなるときは咎なし。 (初六、晉如、摧如。貞吉。罔孚、裕无咎。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


この卦(Hexagram)は、昇進にかかわっています。

初6(First6)の立場は、上からの引き立てを待っている新人を意味します。

しかし彼は「陰(Yin)」で、積極性に欠け、積極的にやっていかねばならない今の立場にはミスマッチしています。

彼を引き立てる権限を持つのは対応関係にある94です。

が、94は、部下に仕事を任せるべき立場にいるのに、自分で仕事をやらねば気が済まない人物です。

彼は94からの引き立てを期待できません。

そのため、彼は昇進を期待して進もうとするが、取り立ててもらえず、がっかりして帰ってきます。


されど、易経の判断は、「あなたが正しければ吉となる。」

ここで彼に必要なの正しさとは、周りの人たちから信じてもらえなくても、不平を言わず、心を豊かにして状況を受け入れて待つということです。


「ひと言アドバイス」を思い出してみてください。

あなたは、今は周りから評価されなくても、周りの人を助けるために自分の能力や知識を提供しなさい、と書いてあったはずです。

そのようにして待つことが、今の時点での正しさです。


あなたは今はまだ天命を受けていませんから、評価されません。

でも、あなたが不平を言わずに自分にできることをやっていけば、人間界とは不思議なもので、必ずあなたを見ていて評価してくれる人はいるものです。

あなたは焦らず、皆の役に立つことをやっていきましょう。


◇2nd 陰 62

「彼は、昇進するため進もうとするが、昇進できず嘆いてばかりいる。彼は正しい生き方を持続すれば、吉となる。王の母親から大きな福を授かるであろう。」

二爻 六二、晋如(しんじょ)たり、愁如(しゅうじょ)たり。貞(ただ)しければ吉。受茲(こ)の介(おお)いなる福を其の王母に受く。 (六二、晋如、愁如。貞吉。受茲介福于其王母。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は、おとなしく従順な「陰(Yin)」です。

彼は、おとなしくすべき立場を意味する二番目の位置におり、中庸なバランス感覚をもっています。


さて彼は昇進したいと思うのですが、上で昇進させる権限を持つ65は、彼と同じく「陰(Yin)」なので、対応してくれません。

彼を評価してくれる上司がおらず、彼は嘆いてばかりいます。

しかし、62は中庸です。

この状況において、彼がこの卦(Hexagram)の原則通り、不平を言わずに彼の持つ知識や能力を周りに提供していけば、必ずいい状況が来ます。

王である65が彼を評価してくれなくても、65の母親である上9(Upper9)から、大きな評価を受けるだろう、と易経は言います。


あなたは、知識や技能を気前よく皆に分け与える姿勢を続けてください。

意外なところからあなたの昇進は道が開けることでしょう。


◇3rd 陰 63

「彼は、立場や能力に恵まれておらず、昇進できない。しかし彼は仲間たちからの信望が厚い。後悔することはない。」

三爻 六三、衆(しゅう)允(まこと)とす。悔い亡(ほろ)ぶ。 (六三、衆允。悔亡。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は「陰」で、本来は「陽」が入るべき三番目の位置にいます。

63は能力がなく、地位も彼には不適切なので昇進はできません。

しかし、彼は下卦(Lower trigram)にある三つの「陰(Yin)」たちのリーダーです。

彼と同じく低い身分にある仲間たちから尊敬されています。

また上には、63と対応関係にある上9(Upper9)がいます。

63と上9(Upper9)は、「陰」と「陽」で調和しますので、彼は能力がなくて昇進できなくても、転落もしません。


あなたは、昇進は困難かもしれませんが、仲間たちを大事にし、自分の知識や経験を率先して提供していきましょう。

昇進はできなくても、後悔することもありません。


◇4th 陽 94

「彼は、昇進する野望を抱く野ネズミである。仕事はきっちりこなしていても、危うい。」

四爻 九四、晋如(しんじょ)たる鼫鼠(せきそ)、貞(ただ)しけれど厲(あやう)し。 (九四、晋如鼫鼠貞厲。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


94は「陽」ですが、本来は「陰」が入るべき四番目の位置にいます。

彼は野心家で、出世欲が強く、汚いことをして昇進を果たしました。

しかし彼が昇進した地位は、忠義に厚くなければ務まりません。

彼はいつも転落を恐れて怯えています。

彼の様子は、こっそりと作物を食い荒らし、捉えられることに怯える野ネズミのよう。

野心あって昇進した地位が、自分にふさわしくないことを彼は知っています。

なので彼は仕事をしっかり成し遂げていても、落ち着きません。


あなたは、今いる地位にふさわしくありません。

その地位は、あなたの不正の結果です。

周りの人たちに能力や知識を提供していても、あなたは危険な状況にいます。

自分の生き方を考え直した方が良いでしょう。


◇5th 陰 65

「あなたは後悔することはない。損得をいちいち気にするな。考えていることを実行すれば吉で、大きな利益がある。」

五爻 六五、悔い亡(ほろ)ぶ。失得(しっとく)恤(うれ)うるなかれ。往くときは吉にして利あらざるなし。 (六五、悔亡。失得勿恤。往吉无不利。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は「陰」で、五番目の位置にいます。

この位置は王を意味し、本来は「陽」が来るべき場所です。

65は、不適切にこの地位にいるように見えます。

65と対応する位置にある62も「陰」ですから、65は部下からの協力も得られません。


にもかかわらず、易経は65は後悔しないどころか、大きな成果を上げると言います。

この卦(Hexagram)は、上が文明を表す「☲ 離(り:Li)」="Radiance"で、65はその中心です。

65は、有力なものに任せ、功績があったものを昇進させる調整型の優れた君主で、彼の聡明さは皆から尊敬されています。

なので、彼は多少の損得など気にせずに、知恵を大いに発揮して、全体が良くなるためならばなんでも実行していけばいいでしょう。

国全体が大いに繁栄するでしょう。


この爻(Line)が出れば、あなたは考えていることを実行してください。

損得を恐れる必要はありません。

大きな利益と幸福な状況が訪れるはずです。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「彼は、昇進した結果、細い角の先端にたどり着いた。彼は猜疑心に満ちて攻撃的になってしまった。自分の領地である村を征伐する。危うい状況だが、問題は起こらない。彼自身の領国に攻め込むことは、恥ずかしい。」

上爻 上九、其の角(つの)に晋(すす)む。維(こ)れ用って邑(ゆう)を伐つ、厲(あや)うけれど吉にして咎(とが)なし。貞(ただ)しけれど吝。 (上九、晋其角。維用伐邑、厲吉无咎。貞吝。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上9(Upper9)は、昇進の終極点にいる人物を意味しています。

上9(Upper9)は、もうこれ以上は昇進できません。

イメージとしては、彼は動物の角の先っぽにいます。

とがった先端は先へ行くほど細くなり、彼は居心地が悪くなります。

猜疑心が強まり、彼は攻撃的になっていきます。

彼は自分の領地の村が従わない、といって自分の家臣を征伐します。

彼が仲間を攻撃するのは危険な行為ですが、結果としては反乱を防ぐので吉となり、問題は起こりません。

しかし、彼には大義名分はあるにせよ、高い地位に登った結果、仲間を信じられなくなり、自分の領地を討伐するのは、恥ずべきことです。

これは彼がいい統治をおこなっていない証拠です。

彼が志していた昇進は、こんなことをするためだったのでしょうか?


昇進への野心は人間の本質の一部です。

易経では野心を否定はしません。

しかし、あくまで昇進した後にあなたが何をするかが重要です。

大企業に就職したのはいいが、派閥争いばかりしていて仕事をおろそかにしている人をよく見かけます。

地位は、世界が良くなるために生かされるべきです。

あなたの理想はなんですか?

昇進を志す前に、あなたは自分の信念や理想を考え直すべきです。

昇進するならば、地位をみんなのために生かすべきです。



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