NO.55 豊(ほう="Abounding"):絶頂期、最盛期の戒め

豊(ほう="Abounding")シンボル






豊(ほう="Abounding")


⚋ 6th:陰:上6(Upper6)

5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

3rd:陽:93

2nd:陰:62

⚊ 1st:陽:初9(First9)


※上6(Upper6)、65、94、93、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

構成の解説

上卦(Upper trigram)は、「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake":雷・地震・物事の胎動・妊娠

下卦(Lower trigram)は、「☲ 離(り:Li)」="Radiance":太陽・火・文明・付着する

知的に動くので、盛大なことができる、というのがこの卦(Hexagram)の形。

卦(Hexagram)の形が、初9(First9)から94までが神への供物を入れる器、65と上6(Upper6)が器の上に盛られたたくさんの供物。

あらゆるものが集まった豊かな状況を意味する。

王は、しばらくの間、通常できないことができるようになる。

<䷶ 豊(ほう="Abounding")>は、漢字(Chinese character)の意味は豊かさであるが、この卦(Hexagram)で取り上げられているテーマは「衰退」である。

易経は運気の循環を説く。

力が集まった絶頂期をこの卦(Hexagram)は意味するが、絶頂期は衰退がすでに始まっている、と易経は考えるのである。

絶頂期ほど危うい時はない。

豊(ほう="Abounding"):絶頂期、最盛期の戒め
豊(ほう="Abounding"):絶頂期、最盛期の戒め


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたの願いはかなう。王だけがこの豊かな状態に到達できる。日が最も高い間があなたのチャンスである。」

卦辞 豊、亨(とお)る。王、之(これ)に假(いた)る。日中に宜(よろ)し。 (豊、亨。王假之。宜日中。)

<䷶ 豊(ほう="Abounding")>は、豊かさを意味しますが、物やお金や人が集中した空前の最盛期です。

この富の集積をもってあなたはあらゆることを成し遂げる可能性があることを示唆します。

この豊かさを享受できるのは王だけです。

下卦(Lower trigram)は、「☲ 離(り:Li)」="Radiance"で、智慧を表します。

上卦(Upper trigram)は、「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake"で、動きを表します。

卦(Hexagram)の形は、智慧をもって動く、という意味です。

富が集まった絶頂期においては、王は集まった富を運用する責任があります。

絶頂期は、それ以上の運気の上昇はなく、今後は衰退していくだけです。


易経は、運気の循環を世界の原理としています。

あらゆる物事は、最盛期に達した瞬間、衰退を始めます。

豊かさは、循環するエナジーの一局面に過ぎません。

日が天上の一番高いところに来た今だからこそ、あなたができることがあります。

そのチャンスを見逃してはなりません。


繁栄は、永遠ではありません。

歴史を見れば、どんなに繁栄した国も滅びています。

長期にわたり繁栄を誇ったローマ帝国も、皇帝トラヤヌス、ハドリアヌス時代を頂点に徐々に衰退を始め、やがてはゴート族の侵入で滅亡しました。

中国の歴代王朝も、建国から絶頂期までは繁栄しますが、最盛期を過ぎれば衰退し、分裂や反乱が起こり、滅亡し、新しい王朝がまた建国されてきました。

最盛期は、衰退の幕開けでもあるということです。

正午に太陽が頂点に達すれば、午後には太陽の光は弱まっていき、夕刻には太陽は沈みます。

世界はすべて時間とともに栄華盛衰を繰り返します。

人の一生であっても、最盛期を過ぎれば衰退していきますし、霊魂にいたってもそれは同じことである、と易経は言います。


この卦(Hexagram)が出たら、あなたは最盛期を迎えようとしています。

最盛期は二度とないチャンスの時ですので、あなたはこの時期にしかできないことを実行する必要があります。

最盛期には、人生を明るくし、家族を明るくし、所属する会社や組織を明るくし、さらには世界を明るくするよう、あなたは最大の努力が必要です。

危機感を持ちながらあなたの最盛期をうまく生かしましょう。


◇ひと言アドバイス(象)

通常できないことを実行しよう

この卦(Hexagram)は、下に稲妻、上に振動があります。

巨大なエナジーが閃光と轟音をもって世界を揺すぶります。

この時期、王は最盛期の権力をもって訴訟を裁き、刑罰を下すべきである、と易経は言います。

王の権力が最盛期にある時は、通常は周りの意見を気にしてできない決定を下すことができます。

また、王の独断で制度を作ることもできます。

あなたは絶頂期にしかできないことを実行してしまいましょう。

実は権力を自由に使える機会はごくまれです。

人間は皆が権利を主張する生き物です。

安易な妥協と現状維持は、人間社会の通常の状況です。

王がこうしたなれ合いを廃止して物事を実行できるのは、絶頂期だけです。

独裁は、暴政にいたる可能性もありますが、天下を照らす目的のために独裁を行えば、社会を進歩させます。

このタイミングとチャンスを生かしましょう。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

豊(ほう="Abounding")

⚋ 6th:陰:上6(Upper6)

5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

3rd:陽:93

2nd:陰:62

⚊ 1st:陽:初9(First9)


※上6(Upper6)、65、94、93、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)

「彼は、その庇護者に出会う。十日間、庇護者のもとにいて問題はない。思うことを実行すれば、崇高な成果が上がるだろう。」

初爻 初九、其の配主(はいしゅ)に遇(あ)う。旬(じゅん)といえども咎(とが)なし。往けば尚(たっと)ぶことあり。 ※配主(はいしゅ)=パトロン、旬=十日間、あるいは最盛期 (初九、遇其配主。雖旬无咎。往有尚。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初9(First9)は、豊かな時期の始まりです。

初9(First9)は「陽」なので聡明です。

彼は、自分から行動します。

彼は動いていった先に、対応関係にある94と出会います。

初9(First9)と94は、どちらも「陽」なので、調和しません。

二人は永続する関係ではありませんが、短期間にしろ、初9(First9)は94から厚遇されます。

庇護者である94と出会ってから、十日間あまりの短い期間が、初9(First9)の運の最盛期です。

この期間に、彼が考えていた仕事を実行できれば、尊い成果をあげることができ、仲間や家族に繁栄をもたらすことができます。


あなたは今、パトロンを得て運気の絶頂期です。

しかしあなたとパトロンは、永続する関係ではありません。

時期を過ぎれば、あなたたちは一緒にいることはできません。

わずかの期間がチャンスです。

これを逃さず、あなたはできることを完成させてしまいましょう。


◇2nd 陰 62

「あなたが仕える君主は、簾をいっぱいに降ろしているので、彼には世界が見えない。この君主はあまりに愚かなので、昼間から北斗七星が見える。あなたは行動すれば、君主から疑いをかけられる。あなたが誠意と大義をもって、この愚かな君主を教育できるようならば吉。」

二爻 六二、其の蔀(しどみ)を豊(おお)いにす。日中に斗(と)を見る。往けば疑疾(ぎしつ)を得ん。孚(まこと)ありて発若(はつじゃく)たれば、吉。 ※蔀(しどみ)=日よけのすだれ (六二、豊其蔀。日中見斗。往得疑疾。有孚発若、吉。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は、下卦(Lower trigram)である「☲ 離(り:Li)」="Radiance"の中心にいます。

彼は叡智を持った、従順で聡明な家臣です。

ところが、62が対応関係を持つ65は、愚かな君主です。

この君主は、日よけの簾を最大に降ろして世界が見えません。

彼はあまりに愚かなので、家臣たちは日中に北斗七星が見えるほどです。

これでは、62が有益なことを実行しようとしても、65から謀反の疑いを掛けられます。

もし、62が誠意と大義をもって、この君主を教育することができれば状況は吉となるのですが・・・。

幸運の条件は出されているものの、昼間に北斗七星が見えるほどの暗い君主では、62はなにもできません。


この爻(Line)が出た場合、あなたは絶望的な上司に仕えることになります。

あるいはあなたは、絶望的な方針の会社に勤めることになるでしょう。

62と65は、対応関係にはあるものの、互いに「陰(Yin)」ですから、永続した関係にはなり得ません。

あなたはいずれ今の環境から立ち去らねばなりません。

しかし望みは薄いとしても、あなたが上司や経営者を教育できるか、やってみましょう。

もしそれが可能ならば、大いに吉ともなえます。

極めて薄い望みではありますが、絶望的な時でも、わずかな可能性があれば試すべきです。


◇3rd 陽 93

「あなたが仕える君主は、周りを幕で覆ったような愚かさだ。日中に小さい星の光が見えるほどの絶望的な状況である。あなたは右の肘が折れて、なにもできない。しかしあなたに責任はない。」

三爻 九三、其の沛(はい)を豊(おお)いにす。日中に沫(まい)を見る。其の右の肱(ひじ)を折る。咎(とが)なし。 (九三、豊其沛。日中見沫。折其右肱。无咎。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


93も、下卦(Lower trigram)である「☲ 離(り:Li)」="Radiance"の一部です。

彼には知性があります。

93は「陽」で、「陽」は入るべき三番目の位置にいます。

彼は、積極的に聡明さをもって君主に仕えようとします。

しかし、93が仕える君主、上6(Upper6)は、最悪の君主です。

この君主は、周りに幕を下ろしていて、道理も大義もなにも理解しません。

この君主は地位はなく、金だけはあるわがままな投資家のような人物です。

あまりに君主が愚かなので、93は日中に北斗七星どころか小さな星々が見えます。

絶望的な暗君の元で仕事をしようと93は努力しますが、右手を折られてしまったように、あらゆる有益な提案はおろかな君主に否定されました。

93は傷ついて君主のもとを去ります。

しかし、彼は、君主に対して懸命に自分の知恵を提供しました。

結果は悲惨なものですが、彼の大義は間違ってはおらず、彼は傷ついたとしても誇りがもてます。


あなたは、努力してきましたが愚かな上司を変えることはできませんでした。

あなたは敗北して去りますが、あなたに責任はありません。

あなたに後ろめたさがないのはめでたいことです。

あなたが大義を尽くして全力を尽くしたならば、胸を張って次のステージに向かえるのですから。


◇4th 陽 94

「あなたが仕える君主は、簾をいっぱいに降ろしているので、彼には世界が見えない。この君主はあまりに愚かなので、昼間から北斗七星が見える。あなたは部下の協力を得ることができれば吉。」

四爻 九四、其の蔀(しどみ)を豊(おお)いにす。日中に斗(と)を見る。其の夷主(いしゅ)に遇(あ)う。吉。 (九四、豊其蔀。日中見斗。遇其夷主。吉。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


四番目の位置は、君主に直属する大臣を意味します。

94は大臣で、君主に近い立場です。

しかし彼が仕える君主はおろかで、すだれを降ろし切っていて世界を見ようとしません。

この君主があまりに愚かなので、家臣たちは昼間に北斗七星が見えます。

絶望的な状況です。

94は、部下である初9(First9)にへりくだり、協力を要請します。

本来は94が上司で初9(First9)が部下ですが、94は初9(First9)に助けを求めます。

94と初9(First9)は対応関係にはありますが、彼らは両方とも「陽」なので、本来は協力関係は発生しません。

が、今は君主が愚かで国が危機に陥っています。

緊急事態では、みんなが協力し合うべきです。

94と初9(First9)が協力し合うならば、状況は吉となるでしょう。


この爻(Line)が出たら、あなたは格下の相手に協力を要請してみてください。

臨時でも協力関係が発生すれば、あなたの状況は改善されます。


◇5th 陰 65

「あなたは、愚かな君主に、文徳を持つ賢者たちを招かせなさい。めでたく誉れあり、吉となる。」

五爻 六五、章(しょう)来たせば、慶誉あり。吉。 (六五、来章、有慶誉。吉。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は君主ではあるものの、非常に愚かです。

愚かな君主に善政を期待するのは無理です。

しかし、あなたは君主の愚かさ利用して、君主を騙し、文徳ある賢者たちを招聘することはできるかもしれません。

下卦(Lower trigram)である「☲ 離(り:Li)」="Radiance"は、文明を意味します。

実はこの愚かな君主の家臣は、能力ある人物がそろっています。

この愚かな王には遊んでいてもらい、賢者たちが政治を行えば、愚かさが最盛期を迎えた時代に、喜ばしき栄誉をもたらすことができます。

事態は一気にめでたい方向に向かうでしょう。

リーダーが愚かな時は、部下たちが実権を握るのは、一つの打開策なのです。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「彼は、屋根を天に届くほど高くして、家の周りに簾を張り巡らした。あなたが戸から家の中を覗くと、静まり返っていて誰もいない。三年たっても彼は現れない。凶である。」

上爻 上六、其の屋(おく)を豊(おお)いにす、其の家に蔀(しどみ)す。其の戸を闚(うかが)うに、闃(げき)として其れ人なし、三歳まで覿ず。凶。 (上六、豊其屋、蔀其家。闚其戸、闃其无人、三歳不覿。凶。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は、<䷶ 豊(ほう="Abounding")>の終極点を意味します。

上6(Upper6)はまた、上卦(Upper trigram)である「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake"の終極点でもあります。


彼は信念も基準もないおろかな最高責任者で、豊かさを誤解し、破滅に向かいます。

彼は自分の権威を誇示するために、家の屋根を天まで届くくらい高くしました。

また彼は、泥棒が富を盗みに来ないようにするために、家を簾で覆いました。

彼は現実から目を背け、疑心暗鬼で頭がおかしくなっています。

さて、こんな愚かな者を誰も相手にしません。

あなたが戸の隙間から家の中を覗くと、しんと静まり返っていて誰いません。

三年たっても誰も家から出てきません。

彼はまだ生きているのでしょうか?

彼が死んでいるとしても誰も彼と接触がないのでわかりません。

非常に不吉です。

愚かなリーダーは、自から世の中や現実と隔絶し、隠れてしまうものです。

彼本人が気づかぬ以上は、周りにはどうしてみようもありません。

このような愚かなリーダーになってはいけません。


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