NO.34 大壮(だいそう="Great Invigorating"):勢いある時の戒め

大壮(だいそう="Great Invigorating")シンボル









大壮(だいそう="Great Invigorating")



⚋ 6th:陰:上6(Upper6)

⚋ 5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

⚊ 3rd:陽:93

⚊ 2nd:陽:92

⚊ 1st:陽:初9(First9)


※上6(Upper6)、65、94、93、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。


大壮(だいそう="Great Invigorating"):勢いある時の戒め
大壮(だいそう="Great Invigorating"):勢いある時の戒め


構成の解説

上卦(Upper trigram)は、
「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake":雷・地震・物事の胎動・妊娠

下卦(Lower trigram)は、
「☰ 乾(けん:Qian)」="Force":天・始まりのエネルギー・男性原理・積極・能動的

下に、純粋なる「陽」のエナジーの塊がある。

それが上にも影響を及ぼして、上に雷を引き起こす。

「陽」のエナジーはさらに増幅され、一気に頂上まで制圧してしまおうとしている。

下から「陽」が上昇していくタイプの「消息卦(Transition Hexagram)」のひとつである。

この卦(Hexagram)では、「陽」の力はすでにボーダーラインを越えている。

圧倒的な力というのは、それが善であろうと、使い方を誤れば暴力的になってしまう。

強大な勢いがある時、力の正しい使い方を説く卦(Hexagram)である。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたには現在、大きな力と勢いがある。その力の使い方が正しければうまくいく。」

卦辞 大壮、貞(ただ)しきに利あり。 (大壮、利貞。)

<䷡ 大壮(だいそう="Great Invigorating")>は、下から「陽」が上昇していくタイプの「消息卦(Transition Hexagram)」のひとつです。

下のほうから「陰」がどんどん伸びていく形、あるいは下のほうから「陽」がどんどん伸びていく形をもった卦(Hexagram)のことを、「消息卦(Transition Hexagram)」といいます。

「陽」は正義、道理、善人のイメージ。

「陰」は不義、不正、悪人のイメージ。


この卦(Hexagram)では、下に剛が集まった「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"があり、上の「☳ 震(しん:Zhen)」="Shake"と接続しています。

地下から湧き上がる創造的なエナジーが、大地震を引き起こし、すべてを崩壊させるイメージです。

ここでは健全性を意味する「陽」が、強い勢いを持っています。

「陽」の勢いは圧倒的で、すでに真ん中のボーダーラインを突破しています。

「陽」は本来は正義を表しますが、力の制御ができなくなった「陽」は、他者を傷つける可能性が出てきています。

この卦(Hexagram)は、勢いがつきすぎて、危険をまき散らしつつある危うい状態を示しているのです。

だから、易経は、この卦(Hexagram)を吉とは言いません。

あなたは力をコントロールできるならばいい状況になる、とだけ易経はコメントします。


空手とかボクシングを習得した武術家は、身体は鍛えられ、強い攻撃力を持ちます。

武術家は悪人を打ち倒すことができますが、場合によれば相手を殺してしまうかもしれません。

武道というのは、暴力の技術ですが、その正しい使い方を学ぶことでもあります。

なにか圧倒的な力を持っているものは、それが資金力であっても、権力であっても、力の使い方を学ばなければなりません。


あなたは現在、圧倒的な力を持っていますが、力の正しい使い方を考え、学んでください。

正しく力を使えるならば、あなたは多くの人を救うことができます。

間違った力の使い方は、多くに人を傷つけます。

武道の精神を身に着けてください。


◇ひと言アドバイス(象)

礼節がなければ力は使ってはならない

天の上で、雷が鳴り響いているのがこの卦(Hexagram)のイメージで、圧倒的なエネルギーが今や解放されようとしています。

ここで易経は、あなたが賢者であるならば、力があっても礼節なくしてそれを行使しないものだ、と戒めます。

東洋の武道では、礼節を徹底して重視します。

武道を学ぶものは、戦う前のお辞儀に始まり、神にも礼を捧げ、戦う相手にも礼儀を尽くすことが求められます。

強い力というものは、それを用いて困難を打ち砕き、安定や繫栄をもたらすことができますが、強い力の使い方を誤れば世界が破壊されます。

礼節やモラルを持たずに力をふるうことは、大きな殺戮や破壊にもつながってしまうのです。

ですから、力をどう扱うかという意味での礼節を、力が強いものほどしっかり持つ必要があるのです。

礼節とは、厳格なルール、信条、倫理観です。

あなたは今、圧倒的な力をふるうことができます。

ですが、まずはしっかりとした理念やモラルを身に着けてください。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

大壮(だいそう="Great Invigorating")
⚋ 6th:陰:上6(Upper6)

⚋ 5th:陰:65

⚊ 4th:陽:94

⚊ 3rd:陽:93

⚊ 2nd:陽:92

⚊ 1st:陽:初9(First9)


※上6(Upper6)、65、94、93、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)
「彼は、まだ地位もないのに、焦って足が動き、一気に進もうとする。このまま突き進めば、凶となることは確実である。」

初爻 初九、趾(あし)に壮(さか)んなり。征(ゆ)けば凶。孚(まこと)あり。 (初九、壮于趾。征凶。有孚。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初9(First9)は、大きな勢いある時期の始まりにいます。

彼は「陽」で能力があり、積極的に動き出す一番目の位置にいますから、早く動き出そうと焦ります。

しかしながら、初9(First9)はこの卦(Hexagram)では最下位、つまり彼にはまだ地位がありません。

彼と対応するはずの94は、彼と同じく「陽」で、対応しません。

彼が一気に上を目指しても、94が助けてくれないので、彼は進めないでしょう。

このまま彼が突進していけば、よくない結果となること間違いありません。


あなたは現在、勢いだけでなにかをやろうとしています。

しかしあなたには援助はなく、このまま進めば大失敗することは確実です。

この爻(Line)は、易経からあなたへのかなり強い警告です。

今は立ち止まってください。

援助者が現れるのを待ちましょう。


◇2nd 陽 92

「あなたは、中庸を心がけ、周りに押し流されなければ吉である。」

二爻 九二、貞(ただ)しければ吉。 (九二、貞吉。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


92は、まとまって上へ昇ろうとする「陽」たち(Yangs)の一部です。

92は、中庸におとなしくすべき二番目の位置にいるのですが、彼は「陽」なので性格がミスマッチしています。

彼はおとなしくできない性質なので、周りの「陽」たち(Yangs)と一緒に突き進んでしまいそうです。

でも彼はまだ中庸さも立場上残しています。


集団をなして突き進もうとする暴力的で圧倒的な空気があなたの周囲に満ちています。

しかし、あなたは冷静さを失わないでください。

周りの人たちに押し流されないでください。

あなたは冷静であるべき立場です。

中庸さを保ち、盲進しないのであれば、あなたはこの状況をいい方向に生かすことができるでしょうから、吉となります。

冷静にやってください。


◇3rd 陽 93

「悪人は勢いに任せて強引に決着を付けたがるものだが、君子はこういう力の使い方はするべきでない。あなたには理由はあるとしても、強引に決着を付ければ危険だ。凶暴な牡羊が、勢いに任せて垣根に向かって突進し、その角が垣根に引っ掛かり、動けなくなり苦しむようなもの。」

三爻 九三、小人は壮を用い、君子は用いること罔(な)し。貞しけれど厲(あや)うし。羝羊(ていよう)藩(まがき)に触れて其の角を羸(くるし)ましむ。 (九三、小人用壮、君子用罔。貞厲。羝羊触藩羸其角。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


93は勢い盛んな「陽」です。

彼は、活発に行動すべき三番目の位置にいます。


一方で、彼と対応関係にある上6(Upper6)が、助けを求めています。

上6(Upper6)は「陰」なので、彼と上6(Upper6)は「陰」と「陽」で調和します。

93が上6(Upper6)の救援に動くのは大義があります。

しかし、三番目の位置は、バランス感覚の欠如を意味する位置です。

彼は、上6(Upper6)を救うために暴力をふるって、一気に決着を付けようとします。


易経は、重大な警告を発します。

勢いに任せて暴力的に決着をつけることは、悪人の行動だ。

賢明な人間は、いくら勢いや力を持っていても、暴力はふるわない。

暴力で問題を解決しても、そのあと恨みが残り、副作用が出てくるものだからだ。

今のあなたの状況は、盛りのついた牡羊が、牝を求めて突進していって、垣根に突っ込み、角が絡まって出られず苦しむような不吉さがある。


あなたは今、問題を強引に解決してしまうこともできます。

しかし、暴力的な問題解決は、結局はあなたに副作用が起こります。

垣根に突進して動けなくなり、苦しむ羊のようにならぬためにも、暴力的でない問題解決を検討すべきです。


◇4th 陽 94

「あなたは、行き過ぎを畏れてブレーキをかけるならば、吉であり後悔することをまぬがれる。牡羊が垣根に突っ込んでも、垣根が切れて道が開け、牡羊は角が絡まって苦しむことがなくなる。あなたの乗る大きな車は頑丈で、どこまでも進んで行ける。」

四爻 九四、貞(ただ)しければ吉。悔い亡(ほろ)ぶ。藩(まがき)決(ひら)けて羸(くるし)まず。大輿(だいよ)之輹(とこばしり=車軸と台車の接合部分)に壮(さか)んなり。 (九四、貞吉。悔亡。藩決不羸。壮于大輿之輹。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


94は「陽」なのですが、本来は「陰」が入るべき四番目の位置にいますので、彼はミスマッチしています。

彼の周囲は今、暴力的な方向に進んでいて、彼はその先頭にいます。

彼は暴走する集団のリーダーです。

94も今は周りに合わせて暴力的に走っていますが、彼がもし自分が立ち止まるべき立場にあることに気づけば、仲間たちも立ち止まります。

暴力的で集団的な力の乱用が制御され、全体的な状況は良くなることでしょう。

力を正しく使う場合、牡羊が垣根に突っ込んでも、垣根が切れて道が開けるように、彼らは閉塞状況を開くことができます。

四つの「陽」たちは、結束が固く、頑丈で大きな車のように立派な力を持っているので、暴力的に猛進しなくてもどこへでも行けます。


暴力を平和利用に転換する鍵を握っているのは、あなたです。

あなたが冷静になれば、今は盲進しているあなたの仲間も、自分たちの暴力性に気が付きます。

あなたたちは今、力にあふれているのですから、暴力的な手段をとらなくても、世界をよくすることが可能です。

あなたたちが力を合わせれば、なんでもできるでしょう。

自分を振り返り、冷静になってください。


◇5th 陰 65

「あなたは、凶暴な牡羊を田んぼの境の小道に見失う。羊が突進することで災いが起こる心配はなくなった。」

五爻 六五、羊を易に喪(うしな)う。悔いなし。 (六五、喪羊于易。无悔。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は「陰」です。

初9(First9)から94までは、すべてが突進していく「陽(Ying)」でした。

65には昇り行く野心的な力はありません。

また彼は五番目の位置にいるので中庸さを持ち合わせています。

<䷡ 大壮(だいそう="Great Invigorating")>では、制御がつかないエナジーの使い方が問題となっています。

ここでは65は暴走する「陽(Ying)」たちの仲間に入っておらず、逸脱しています。

なので、暴力的なエナジーの象徴である牡羊を、水田のあぜ道で見失ってしまった、というイメージが出て来ます。

一見、良くないようにも見えますが、暴走により被害が出る危険性がなくなり、めでたい状況になりました。

力は強ければいいというものではありません。

牡羊の力が暴力的に使われるくらいならば、牡羊は去勢された方がいいのです。


あなたは、暴力的に動く周囲の人たちの仲間ではなく、部外者です。

野心的なことは成し遂げられないでしょうが、暴力で人を傷つけるよりはよほどいいでしょう。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「牡羊は垣根に突進し、角が垣根に絡まり、はまってしまった。牡羊は引くこともできず進んで突破することもできない。いいことはひとつもない。だが苦しみを修行と心得るなら、いずれ吉となる。」

上爻 上六、羝羊(ていよう)藩(まがき)に触る、退(しりぞ)くあたわず、遂(すす)むあたわず。利するところなし。艱(くる)しめばもって吉。 (上六、羝羊触藩、不能退、不能遂。无攸利。艱則吉。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は、<䷡ 大壮(だいそう="Great Invigorating")>の終極点にいます。

彼は、「陰」なので力はないのですが、この卦(Hexagram)の一番上にいて、気持ちだけは勢いづいてしまっています。

彼は事態の決着をつけてやろうと意気込んで突進していきます。

しかし、彼はまるで力がない牡羊です。

結果として、牡羊は勢いづいて垣根に突っ込みますが、やはり角が絡まってはまってしまいます。

彼は力が足らぬ牡羊ですから、引っかかって垣根を突破もできないし、引こうとしても角が引っかかって抜けだせません。

彼は行き詰まってしまい、最悪な状況に陥ります。

ただし、上6(Upper6)は「陰」なので、彼は本来は従順な者です。

こうした状況も彼が招いたことで、修行と思い、彼が耐え忍ぶことができれば、ここは<䷡ 大壮(だいそう="Great Invigorating")>の終極点ですので、状況もじきに変わります。

彼は長くは苦しまず、吉となります。


あなたは力もないのに、暴走して窮地に陥るかもしれません。

でもよく反省すれば、今後は同じ失敗はしません。

あなた自身が招いた窮地を通して、智慧を身に着けたらよいでしょう。


卦辞
大壮、貞(ただ)しきに利あり。
(大壮、利貞。)
初爻
初九、趾(あし)に壮(さか)んなり。征(ゆ)けば凶。孚(まこと)あり。
(初九、壮于趾。征凶。有孚。)
二爻
九二、貞(ただ)しければ吉。
(九二、貞吉。)
三爻
九三、小人は壮を用い、君子は用いること罔(な)し。貞しけれど厲(あや)うし。羝羊(ていよう)藩(まがき)に触れて其の角を羸(くるし)ましむ。
(九三、小人用壮、君子用罔。貞厲。羝羊触藩羸其角。)
四爻
九四、貞(ただ)しければ吉。悔い亡(ほろ)ぶ。藩(まがき)決(ひら)けて羸(くるし)まず。大輿(だいよ)之輹(とこばしり=車軸と台車の接合部分)に壮(さか)んなり。
(九四、貞吉。悔亡。藩決不羸。壮于大輿之輹。)
五爻
六五、羊を易に喪(うしな)う。悔いなし。
(六五、喪羊于易。无悔。)
上爻
上六、羝羊(ていよう)藩(まがき)に触る、退(しりぞ)くあたわず、遂(すす)むあたわず。利するところなし。艱(くる)しめばもって吉。
(上六、羝羊触藩、不能退、不能遂。无攸利。艱則吉。)

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