NO.12 否(ひ="Obstruction"):暗黒時代、閉塞状況

否(ひ="Obstruction")シンボル

否(ひ="Obstruction")


 6th:陽:上9(Upper9)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、95、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

否(ひ)は、暗黒時代・閉塞状況。
否(ひ="Obstruction"):暗黒時代、閉塞状況。

構成の解説

上卦(Upper trigram)
「☰ 乾(けん:Qian)」="Force":天・始まりのエネルギー・男性原理・積極・能動的

下卦(Lower trigram)
「☷ 坤(こん:Kun)」="Field":大地・従順さ・女性原理・消極・受動的


上に、天を意味する「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"があり、下に地を意味する「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"がある。

天と地がそれぞれその本性に合った場所に配置されているのだから、めでたく見える。

だが、易経では天に「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"があり、地に「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"があるだけで、交わらないので不吉だと捉える。

「陰」と「陽」が交わらなければ万物は生成されず、完全な閉塞状況となる。

<䷋ 否(ひ="Obstruction")>は天と地が混ざらない暗黒時代を意味する。

またこの卦(Hexagram)は、下から「陰」が「陽」を蝕んでいく形の、「消息卦(Transition Hexagram)」と呼ばれる形。

上がってきているのが「陰」である。

なので、これは正義が浸食されて邪悪がどんどん勢力を増しているイメージ。


あなたの運気があらゆる面でふさがり、行き詰まる。

卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)には、非常に良くないことが書かれている。

しかし、易経の循環思想では、こうした閉塞時代もいつかはいい時代に逆転していくと考える。

暗黒時代におけるさまざまな状況を考察した卦(Hexagram)。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「暗黒時代は、まともな人が生きれる状況ではない。正しさを守ろうとしても、いいことにはならない。大が行ってしまい、小が来る。」

卦辞 否の人にあらざる。君子の貞に利あらざる。大往き小来たる。 (否之匪人。不利君子貞。大往小来。)

下のほうから「陰」がどんどん伸びていく形、あるいは下のほうから「陽」がどんどん伸びていく形をもった卦(Hexagram)のことを、「消息卦(Transition Hexagram)」といいます。

「陽」は正義、道理、善人のイメージ。

「陰」は不義、不正、悪人のイメージ。


<䷋ 否(ひ="Obstruction")>においては、下から「陰」爻が昇ってきていて、下卦(Lower trigram)がすでに浸食されました。

「陰」はこれからさらに上へ向かい、「陽」を蝕んでいくことでしょう。

これからさらに正義が邪悪に侵食されていきます。

およそ、人間性を心に持っているものには耐えがたい状況だから、易経は「人間が生きれる状況ではない」と強烈に表現します。

「大が行ってしまい、小が来る」というのは、正義がなくなり、邪悪がどんどん増えていくことを意味します。

天と地それぞれが上と下からの引力に引かれて分断されています。

「陰」と「陽」が、混ざり合いません。

易経は、物事は動きの中で出会い、混ざり合って化学反応が起こり、新たなものが発生し、世界が発展すると考えます。

天と地が混ざり合わない状態は、停止にほかならず、最も不吉な状態と易経は捉えるのです。

男と女が混ざり合わないならば、新しい生命は生まれません。

上司と部下が混ざり合わなければ、国や組織は維持できません。


この卦(Hexagram)を人格として見るならば、内面は陰険、外面は権力欲や自己顕示欲が強くて不自然に外交的で攻撃的な性格の人です。

こういう人は立派なことを言っていても、内面は優柔不断で一貫性がなく陰湿です。

この卦(Hexagram)が出たら、邪悪の勢力はどんどん拡大していきます。

人道と正義が否定される悲しい状況が広がっていきます。

まさに暗黒時代が訪れます。

すべての「陽」が浸食されれば、すべてが「陰」となり、<䷁ 坤(こん="Field")>となります。

そこまで行くと易経の循環思想では今度は下から強烈な「陽」が発生し、世界を逆転させます。

あなたは今、最悪の状況にいて、状況はさらに悪化するでしょうが、今は我慢してください。

良くない状況もいつかは反転するのが易経の世界観です。

こうした状況はいつかは変化します。


※この卦(Hexagram)と上下が逆の形をとるのが<䷊ 泰(たい= "Pervading")>で、意味的も真逆です。

ご関心ある方はここからご参照ください。


◇ひと言アドバイス(象)

動かず、倹約し、一切の能力を外に出さないようにしよう

易経では、困難の真っただ中にある場合は、「動かない」ことが鉄則です。

<䷋ 否(ひ="Obstruction")>の場合は、ただ動かないだけでなく、倹約して、自分の一切の能力を外に出さないようにすべきです。

妬みや害意があなたの周囲に満ちています。

あなたが人道的なことをすれば、たちまち邪悪たちに迫害されます。

あなたの能力を一切出さないようにすれば、邪悪は反応してきません。

自分を抑えておとなしくすることが、閉塞状況を乗り越える智慧です。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines

否(ひ="Obstruction")
 6th:陽:上9(Upper9)
⚊ 5th:陽:95
⚊ 4th:陽:94
⚋ 3rd:陰:63
⚋ 2nd:陰:62
⚋ 1st:陰:初6(First6)

※上9(Upper9)、95、94、63、62、初6(First6)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰 初6(First6)

「茅を抜こうとすると下で根がつながっていて、何本も一緒に抜けてくるものだ。似た者同士は互いに呼び合う。少し悪に染まり始めると、似たような連中が集まってくる。あなたは今ならまだ更生できる。反省して正しい生き方をするならば吉。願いがかなうだろう。」

初爻 初六、茅(ちがや)を抜くに茹(じょ)たり。其の彙(たぐい)と以(とも)にす。貞なるときは吉。亨る。 (初六、抜茅茹。以其彙。貞吉。亨。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


「茅を抜こうとすると下で根がつながっていて、何本も一緒に抜けてくる。類は友を呼ぶ」というフレーズは、<䷊ 泰(たい= "Pervading")>でも出てきました。

ここでは、初6(First6)は「陰」で、「陽」が入るべき一番目の位置にいます。

彼は邪悪に染まりかけた若者です。

類は友を呼ぶ、というのはいい人でも悪人でも同じで、彼の周囲にも邪悪が寄ってきました。

でも彼は、邪悪になり始めたばかり、本当の悪にはなっていません。

彼はまだ正義の心が残っています。

彼は今ならばまだ更生できるので、正道に戻るべきです。

そうすれば彼は本当に望むことを実現していけるのだから、吉です。


あなたは、道を間違えようとしていますが、今ならまだ正しい道に戻れます。

よく考えてください。


◇2nd 陰 62

「あなたは状況に順うべきである。あなたが悪の場合、邪悪の中にいても道理を受け入れれば吉。あなたが正義の場合、閉塞状況を受け入れるならば願いはかなう。」

二爻 六二、包承す。小人は吉、大人は否。亨る。 (六二、包承。小人吉、大人否。亨。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62のテーマは、「素直に包み込むように受け入れる態度」です。

62は「陰」で、二番目の位置にいます。

彼は中庸で従順です。

ここで易経の判断は、62が邪悪か、正義かで判断を分けています。


62が邪悪の場合。

彼は邪悪ですが、道理は知っていて、約束は守ります。

彼は君主を意味する95とも懇意です。

彼と95は、「陰」と「陽」で和合する関係です。

彼は95に忠告されると、従うこともあります。

彼がこういう邪悪ならば、道理には従うようにすれば吉です。


62が正義の場合。

不正や邪悪が拡がっていく時代に、62は邪悪の真っただ中にいて、動けません。

ですが彼自身が閉塞状態にあることを受け入れて、易経の指示通りにおとなしくして能力を隠すならば、状況はいい方向に行くでしょう。


どちらになるかはご自身の状況から判断してください。


◇3rd 陰 63

「彼は、邪悪の道にいることを、心の中で恥じている。」

三爻 六三、包羞す。 (六三、包羞。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


63は「陰」で、邪悪です。

彼がいる場所も、三番目の位置は「陽」が入るべき場所。

彼は状況と性質がミスマッチしているのです。

63は不正ですが、彼は生き方がすべてミスマッチしているのをわかっています。

彼は内心では後ろめたく、恥ずかしいと思っているので、なかなか本当の悪になりきれません。


あなたがもし、こうした戸惑いの中にいるのだとしたら、自分に合わないことはやめませんか?


◇4th 陽 94

「あなたは、天命があるならば、この閉塞した時代の打開に乗り出すことができるだろう。ともに志を果たそうとする仲間にも恵まれるであろう。」

四爻 九四、命(めい)ありて咎(とが)なし。疇(たぐい)祉(さいわい)に離(つ)く。 (九四、有命无咎。疇離祉。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64は、上卦(Upper trigram)である「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"の領域にいます。

彼は同時に、邪悪に満ちた「陰」の集団である下の「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"との境界に接しています。

64は「陽」で正義です。

彼はこの暗黒時代をなんとかしたいと思っているのですが、彼のいる位置は四番目なので実行者ではありません。

彼はタイミングが来るのを待たねばなりません。

タイミングを待って行動するならば、彼は仲間たちにも恵まれて、幸いな状況になります。

彼の仲間とはほかの「陽(Yang)」たち、95と上9(Upper9)です。


塞がっている時こそ、状況が変わるのを「待つ」ことが鉄則です。


◇5th 陽 95

「彼は、暗黒時代を一時停止することができる。彼は正義ならば吉である。ああもう身の破滅だ、と恐れながら、身体を桑の大木のごつごつした根っこにつなぎとめて身を守る。そのような用心深さが彼には必要。」

五爻 九五、否を休(や)む。大人吉なり。其れ亡(ほろ)びなん其れ亡びなんといいて、苞桑(ほうそう)に繋(かか)れり。 (九五、休否。大人吉。其亡其亡、繋于苞桑。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


95は、正しい道を目指す「陽」です。

彼は五番目の位置に正しくいて、実力も兼ね備えた君主です。

彼は下の邪悪たちのリーダーである62とも対応関係にあり、62を説得することができます。

なので彼ならば、この暗黒時代を一時的に停止させて収拾を付けることができます。

こういうことは、相応しい能力と立場にある正義の人であるからこそできることで、彼はよろこばしい状況を作り出すことができます。


しかし、時代はまだ暗黒時代にあるので、つかの間の安定にすぎません。

彼は泰平の世になったと錯覚せずに、「ああ、今度こそもうおしまいだ」と常に心配するべきです。

彼は自身を守るために桑の大木のごつごつした根っこに身体を縛り付けて、用心を怠ってはなりません。

警戒を怠らなければ、彼は少しでも長く安定を取り戻すことができるでしょう。


◇6th 陽 上9(Upper9)

「彼は、暗黒時代をひっくり返して安定した時代を取り戻す。最初はすべて塞がっているだろうが、最後には喜びの時代となるだろう。」

上爻 上九、否を傾(かたむ)く。先には否(ふさ)がり、後には喜ぶ。 (上九、傾否。先否後喜。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


この爻(Line)は、暗黒時代の終極点を意味します。

すべて塞がった時代が終わり、安定した時代が回復される時です。

上9(Upper9)は、上卦(Upper trigram)である「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"の最上位にいる「陽」です。

彼はその権威を用いて、時代の変換を行います。

易経の世界観は、すべてのものは幸運と不運、安定と無秩序、「陰」と「陽」が交互に循環していると考えます。

なので暗黒時代も永遠には続きません。

最初はすべてが塞がった暗黒時代であっても、最終的には閉塞は打開されて正義が通る時代を迎えます。


あなたは、まだ塞がった状況にいるかもしれません。

しかし、悪い時代は永遠ではありませんから、暗黒時代が逆転する時が近づいています。

ただし、いい時代になったとしても、いつかはまた暗黒時代へ逆転していくということを忘れないように。


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