NO.23　剥（はく＝"Stripping"）：剥落、状況の崩落的な危機

2023-07-31T05:42:00-07:00 2024-04-18T07:49:10Z

⚊ 6th：陽：上9（Upper9）

⚋ 5th：陰：65
⚋ 4th：陰：64
⚋ 3rd：陰：63
⚋ 2nd：陰：62
⚋ 1st：陰：初6（First6）

※上9（Upper9）、65、64、63、62、初6（First6）は、易経における伝統的な各爻（こう＝Line）の表記法である。ここでは漢数字（Chinese numeral）ではなく、アラビア数字にしている。

剥（はく＝"Stripping"）：剥落、状況の崩落的な危機

構成の解説

上卦（Upper trigram）

「☶　艮（ごん:Gen）」＝"Bound"：山・障壁・行き止まり

下卦（Lower trigram）

「☷　坤（こん:Kun）」＝"Field"：大地・従順さ・女性原理・消極・受動的

下卦（Lower trigram）は「☷　坤（こん:Kun）」＝"Field"、純粋なマイナスのエネルギー、従順の意味もある。

マイナスのエナジーが、従順に進んで行って、上卦（Upper trigram）の「☶　艮（ごん:Gen）」、山にあたり停止する。

＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞とは、剥がれ落ちること。

下から徐々に崩落していく様子。

下から「陽」がどんどん「陰」に浸食されて行って、ついにあと一つ残るのみとなった。

これもやがては浸食されて剥がれ落ちるであろう。

下から「陰」あるいは「陽」がどんどん昇っていくという、「消息卦（Transition Hexagram）」とよばれる形。

＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞は「陰」に「陽」が圧倒されて、いままさに「陽」は尽きようとしている。

悪人の勢力が増大していき、正義が潰えるイメージ。

爻辞（Explanation of the Lines）も、危機的状況を暗示させるイメージが多い。

危機に置かれた時の教訓である。

卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「今や悪の勢力は世を覆いつくし、残る正義も消えかけようとしている。なにか行動に出てはならない。おとなしくすべき時である。」

下のほうから「陰」がどんどん伸びていく形、あるいは下のほうから「陽」がどんどん伸びていく形をもった卦（Hexagram）のことを、「消息卦（Transition Hexagram）」といいます。

「陽」は正義、道理、善人のイメージ。

「陰」は不義、不正、悪人のイメージ。

＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞は、下からどんどん伸びてきた悪や不正の力が世界を圧倒し、ついに最後に一つ残る正義も、いままさに剥がれ落ちようとしています。

下卦（Lower trigram）は「☷　坤（こん:Kun）」＝"Field"、従順な者を意味します。

従順な者が進んでいった先には山があって、止まらねばなりません。これは「止まるべくして従順に止まる」イメージです。

状況を説明すると、あなたは正しい生き方をしているけれど、あなたの周りのものはすべて、目先の利益を追い求める悪人の道に転落しています。あなたには味方はおらず孤立した状況です。

あなたがなにかをやろうとしても、なにもできません。

こういうときは、状況が変わるのを待つよりほかはありません。

易経の思想としては、「待つ」ということは重視されています。

このような状況の時は、積極的に「なにもしない」のは肯定的にとらえられます。

どのみちこうした状況では動きようはなく、動いても傷つくだけなのですが。

世界は満ち欠けが常に循環しています。

運気が悪いときは、その時期に順ってなにもしないことが、危機を乗り越えるためには大切です。

「待つ」ことこそ、東洋思想の真髄です。

◇ひと言アドバイス（象）

所有を贈与しなさい

上卦（Upper trigram）の「山」が、下卦（Lower trigram）の「地」にくっついているのが＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞です。

これは「山」が削られて剥落し、「地」になったのです。

易経は言います。

すべてがマイナスの力に負けて剥落している危機の状況では、剥がれるついでで上の所有を下の者に分け与えなさい、と。

支配者は下の者たちの支持がなければ成り立ちません。

下の者たちがすべて離反しているのが今の状況。

所有を下の者たちに奪われるのではなく、むしろ積極的に贈与してしまいなさい。

そうすれば、あなたは奪われずに危機を脱出できます。

爻辞(こうじ＝Explanation of the Lines)

⚊ 6th：陽：上9（Upper9）
⚋ 5th：陰：65
⚋ 4th：陰：64
⚋ 3rd：陰：63
⚋ 2nd：陰：62
⚋ 1st：陰：初6（First6）

※上9（Upper9）、65、64、63、62、初6（First6）は、易経における伝統的な各爻（こう＝Line）の表記法である。ここでは漢数字（Chinese numeral）ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陰（Yin） 初6（First6）

「邪悪が下から浸食してきて、あなたが寝ているベッドの足の塗装が、すでに剥落している。状況は正しさを持っている人をないがしろにしている。凶。」

（※一番目の位置は、「陽（Yang）」が入るべき場所。）

あなたが寝ているベッドが、下から陰に浸食されて剥落していく、というイメージで＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞の爻（Lines）は進行します。

下から陰が浸食してくるので、まず最初にベッドの足が浸食されて、その塗装が剥がれ落ちます。

状況は凶に向かって進んでいるのは疑いようはありません。

正しく前向きに振る舞おうとする人にとっては凶、今は行動は一切できません。

◇2nd 陰（Yin） 62 

「邪悪の浸食はさらに強くなり、ベッドの足がついている胴体部分が悪に浸食され塗装が剥がれた。正義がないがしろにされているので、あなたのいる状況は凶である。」

（※二番目の位置は、「陰（Yin）」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。）

陰の侵攻は進み、ベッドは、マットレスの下あたりまで塗装がはげ落ちてきました。

正義や正論が通じぬ危機的状態は相変わらずです。

しかしこの段階は、まだ邪悪側も仲間はそう多くないのだ、と易経は付け加えます。

しかし現在進行中で危機は大きくなっているので警戒が必要です。

◇3rd 陰（Yin）  63 

「彼は、邪悪の道を剥落させる。罪を免れる。」

（※三番目の位置は、「陽（Yang）」が入るべき場所。） この卦（Hexagram）の五つの邪悪な「陰」のうち、63だけは上9（Upper9）の君子と対応関係があります。

もし、63がその周りの邪悪な仲間（62と64）と決別し、邪悪を剥落させて上9（Upper9）の君子に応じるならば、その罪は免れるでしょう。 この爻（Line）は邪悪の側の立場で書かれます。 正義を浸食する邪悪の中にも、邪悪の道を反転させる可能性がある者が存在していることを示しています。

◇4th 陰（Yin）  64

「ベッドを浸食する邪悪の力は、ついにベッドに眠る人の肌を剥落させた。凶である。大きな破局が近づいている。」

（※四番目の位置は、「陰（Yin）」が入るべき場所。）

邪悪は上へと進み、ついにベッドに眠る人の体をもむしばみ始めました。

破局が迫っています。

なにか大変なことが起きるでしょう。

易経では、初9（First9）でも64でもどうすべきかは書かれておりません。

対応は各自が考えるしかないのですが、明らかに身に危険が及んでいるわけなので、あなたはこの段階では避難も視野に入れざるを得ないでしょう。

◇5th 陰（Yin）  65

「彼は、串に刺したたくさんの魚のように宮人たちを率いて、上司の寵愛を受ける。確実な利益がある。」

（※五番目の位置は、「陽（Yang）」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。）

65は、五つの「陰」のトップです。彼は立場も上卦（Upper trigram）の中心で、邪悪たちのリーダーです。

彼は邪悪たちのリーダーですが、中庸であり、バランス感覚を持っています。

他の「陰」たちを統率し、上9（Upper9）寵愛を受けています。

他の邪悪たちをコントロールするという彼の立場は、危険な状況の中で秩序を作っています。

彼にも全体にも利益があります。

また、危機の中の秩序は、邪悪がもたらすとしても悪いわけではありません。

善悪というのは、相対的なものです。

時と場合と立場によってなにが善なのか悪なのかは、変わってきます。

あなたはこうした奇妙な状況に置かれています。

基本的には、不本意でも今はおとなしく状況を受け入れましょう。

◇6th 陽（Yang）  上9 （Upper9）

「屋根の上に、大きな果実が食べられず木に残っている。彼が賢者であれば、下に集まった五人の邪悪たちから推薦されて王となるだろう。彼が邪悪であれば、彼は建物の屋根といっしょに崩落するだろう。」

（※六番目の位置は、「陰（Yin）」が入るべき場所。属性がない場所。）

上9（Upper9）はただ一つだけ最後に残った「陽」、その象徴は「大きな果実」です。

危険な状況も、ついにその終わりが見えてきました。

この卦（Hexagram）は「消息卦（Transition Hexagram）」です。

最後は残った一つの「陽」が「陰」に浸食されて、「陰」に変化します。

そうなるとこの卦（Hexagram）は＜䷁　坤（こん＝"Field"）＞となります。

＜䷁　坤（こん＝"Field"）＞はすべてが「陰」ですが、今度はその時点ですでに強い「陽」が生じてきている、と易経では考えます。

そして、＜䷁　坤（こん＝"Field"）＞は＜䷗　復（ふく＝"Returning"）＞に変化します。

これが「消息卦（Transition Hexagram）」の考え方です。

＜䷖　剥（はく＝"Stripping"）＞

↓

＜䷁　坤（こん＝"Field"）＞

↓

＜䷗　復（ふく＝"Returning"）＞

この最終局面において、易経は最後に残る「陽」がなに者であるかで判断を分けます。

「この果実が賢明なる君子であれば、彼は下に集まった五人の邪悪たちに推戴されて王にまつりあげられるだろう。

もしこの果実が暗愚な悪人であれば、彼は建物の屋根といっしょに崩落して滅亡するだろう。」

あなたが君子か悪人かは、相手が判断することです。

あなたが普段からどのような在り方をしてきたか、また危機に及んでもどういう態度をとるかが、最終局面では結果として出ます。

日常をどう生きるかが、私たちには大切なのです。