NO.63 既済(きせい="Already Fording"):完成、袋小路

既済(きせい="Already Fording")シンボル






既済(きせい="Already Fording")



⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚊ 5th:陽:95
⚋ 4th:陰:64
⚊ 3rd:陽:93
⚋ 2nd:陰:62
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上6(Upper6)、95、64、93、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。


構成の解説

上卦(Upper trigram)は、「☵ 坎(かん:Kan)」="Gorge":水・雨・雲・泉・危険・落とし穴

下卦(Lower trigram)は、「☲ 離(り:Li)」="Radiance":太陽・火・文明・付着する

すべての爻(Lines)において、「陰」と「陽」が「正しい」位置に入っている。

すべての対応関係が「陰」と「陽」で調和する。

この卦(Hexagram)は、形式上は理想的な状態で、「完成」されている。

しかし、易経はすべてのものは循環すると考える。

この卦(Hexagram)の示す完成は、それ以上の発展はなく、行き詰まりを意味していると易経は認識する。

絶頂に到達した物事は、今後は転落するしかない。

来るべき危機への備えを警告する卦(Hexagram)である。

既済(きせい="Already Fording"):完成、袋小路
既済(きせい="Already Fording"):完成、袋小路


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「あなたは小さい願いはかなう。能力と立場が正しいから恩恵がある。初めは吉だが、最後は大荒れとなる。」

卦辞 既済、小(すこ)し亨(とお)る。貞(ただ)しきに利あり。初めは吉にして終りには乱る。 (既済、亨小。利貞。初吉終乱。)

易経では、めでたい判断が出るための原則がいくつかあります。

<その1>

六つの爻(Lines)は、奇数位置の爻(Line)は「陽」が入っていれば「正しい」。

偶数位置の爻(Line)は、「陰」が入っていれば「正しい」とされます。

<その2>

卦(Hexagram)の中では、対応する位置関係があります。

一番目と四番目の位置、二番目と五番目の位置、三番目と六番目の位置は、対応関係にあります。

ただし、「陰」と「陽」の組み合わせでなければ対応関係は発生しません。

「陰」と「陽」の組み合わせだと調和し、恵みの雨が降ります。

めでたい関係となります。

<その3>

五番目の位置は君主の入る位置で、「陽」が入るとめでたい。

二番目の位置は家臣の位置で、「陰」が入るとめでたいです。


以上は、すべての卦(Hexagram)で吉凶判断の根拠となります。

<䷾ 既済(きせい="Already Fording")>では、上記の「めでたい原則」がすべて完璧に当てはまります。

これは易経の理想の「完成形」です。

ところがこの卦(Hexagram)の判断は、「小さい願いだけかなうう」「始めはいいが、終わりは大乱」という、危ういものです。

なぜなのでしょうか?


易経はすべてのものは循環すると考えます。

世界は「陰」と「陽」が常に変化しながら、良い時と悪い時を往復する、という考え方です。

<䷾ 既済(きせい="Already Fording")>は、すべての爻(Lines)が理想的な配置で組み合わさっていますから、易経の理想の「完成」です。

が、すべてが循環すると考える易経の思想においては、完成もまた一瞬のことに過ぎません。

完成した瞬間が過ぎれば、状況が変わり、また混乱が起こります。

いいも悪いも、すべては一瞬の出来事、固定はされていないというのが易経の思想です。

この卦(Hexagram)は「完成」されていますが、それはこれ以上の発展は望めない、行き止まりの袋小路という考え方も成り立ちます。

この後の混乱は避けられません。


この卦(Hexagram)が出た場合、今はいい状況ですが、今後は混乱が予想されます。

なので、あなたは、これからなにか大きいことを企画しようとしてはなりません。

今があなたの運気の絶頂期ですから、この後は今のようにうまくはいかなくなるからです。

今後の計画は小さいことだけにとどめて、むしろこの後の混乱を想定して準備していきましょう。


いい時もあれば、悪い時もあるのが世界の真実です。

私たちはいい時も驕ることなく、悪い時も絶望せず、常に意識を中立に生きたいものです。

どんな方向にも対応できる「中庸」な感性を持ちましょう。


◇ひと言アドバイス(象)

先に起こる災い予測し、対策を立てよう

この卦(Hexagram)は、上卦(Upper trigram)が水を意味し、下卦(Lower trigram)が火を意味します。

水がそのまま火にかかれば、火は消えてしまいます。

水を鍋に入れるなど、なんらかの処置が必要です。

易経のアドバイスは、運気が完成を迎えてしまった今、あなたは先に起こるであろう災いをあらかじめ予測して、対策を立てておきなさい、と言います。

不意にアクシデントに見舞われれば、悲惨なことにしかなりません。

が、事前に予防策を講じておけば、害を最小に抑えることができます。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

既済(きせい="Already Fording")
⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚊ 5th:陽:95
⚋ 4th:陰:64
⚊ 3rd:陽:93
⚋ 2nd:陰:62
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上6(Upper6)、95、64、93、62、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)

「彼は川を渡ろうとして、車を少し川に進みいれてやはり引き戻した。狐が川を渡ろうとして尻尾を濡らしてしまったので渉るのをやめた。災いはない。」

初爻 初九、其の輪を曳(ひ)く、其の尾を濡らす。咎(とが)なし。 (初九、曳其輪、濡其尾。无咎。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


狐は、この卦(Hexagram)の象徴として登場する動物です。

状況イメージとしては、主人公の目の前に川があります。

これは、主人公が今進めようとしているプロジェクトとか事案を意味しています。

川を渡ろうとして荷車で川に入りかけ、車輪が川に入ります。

が、ここで彼は、「いや、まてよ?このまま私は進んだら、川はもっと深くなるんではなかろうか?」と推測し、川を渡るのをやめて、荷車を引き戻しました。

狐は、川を渡るときには尻尾を高く上げて濡らさぬように渉ります。

ここで登場する狐は、川に入ったところ尻尾が濡れてしまったため、川を渡るのをやめます。

この卦(Hexagram)では、今後に困難が予想されます。

ここでの正しい態度は、あえて慎重に行動することなのです。

今は先に困難や混乱が予想される時期ですから、あなたは慎重に行動していくならば災いを未然に回避できます。


◇2nd 陰 62

「貴婦人が車の蔽いをなくしてしまって、外に出れない。でも彼女はなくなった車の蔽いを探さなくてもよい。七日もすれば出てくるだろう。」

二爻 六二、婦(ふ)其の茀(ふつ)を喪(うしな)う。逐(お)うなかれ。七日にして得(え)ん。 (六二、婦喪其茀。勿逐。七日得。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


62は、二番目の位置にいる「陰」です。

62は、従順な臣下の人物を意味します。

二番目の位置は、中庸の美徳を意味します。

62は95と対応関係にあります。

95は君主です。

62が「陰」で、95が「陽」なので、この二人は調和します。

通常ならばこの関係はめでたいはずなのですが、今は平和な時期です。

君主である95も、大臣である62に指示を出す必要がありません。

なので62は能力ある大臣なのですが、仕事がありません。

これは、貴婦人が車の蔽いを失くしてしまったので、外に出れぬような状態です。

しかし、彼女は車の蔽いを焦って探す必要はないと易経は言います。

七日もすればなくした蔽いは出てくるから、彼女はまた外に出れるようになります。

七日というのは、易経では一つの卦(Hexagram)は六つの爻(Lines)で出来ていますから、運気の一回りを意味します。

今は大臣は必要とされませんが、しかしすでに安定期は絶頂を迎え、今後は混乱が起こっていきます。

発生する問題を解決していくためには、62の能力は必要となります。


あなたは今は平和な時期なので仕事がありませんが、今後、情勢は悪化します。

じきにあなたは忙しくなります。


◇三爻(陽位)

「高宗(Gāo zōng)が蛮族を征伐した。三年かかってようやく打ち勝った。つまらぬ者は戦功があっても高い地位に取り立ててはならない。」

三爻 九三、高宗(こうそう)鬼方(きほう)を伐(う)つ。三年にしてこれに克(か)つ。小人は用いるなかれ。 ※鬼方(きほう)=殷の時代に周辺にいた異民族。 (九三、高宗伐鬼方。三年克之。小人勿用。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


高宗(Gāo zōng)は、実在した殷王朝の中期の王です。

彼は周辺の蛮族を制圧しました。

93は三番目の位置にいる「陽」で、軍司令官を意味します。

高宗(Gāo zōng)が蛮族を討伐しに行く際に、この爻(Line)が出たと言われています。

高宗(Gāo zōng)は多くの犠牲を出しながら、三年かけてようやくこの蛮族を制圧しました。

戦争が終結した後、論功行賞が行われました。

高宗(Gāo zōng)は、つまらぬ者には、戦争に功績があっても高い地位は与えず、報奨金だけ与えました。


この爻(Line)が出た場合、あなたが今、考えている計画やアイデアは、実行に移した場合、最終的に成功はします。

ですがそのために時間がかかり、犠牲もまた大きいでしょう。

また、あなたの事業が成功した後、つまらない者たちが自分の功績に対する見返りをあなたに要求してくるでしょう。

しかしあなたは、つまらぬ者には報奨金だけ支給しなさい。

つまらぬ者に役職を与えてはなりません。

これから運気は衰退に向かいます。

つまらない者を役職につければ、さらに運気が悪化します。


◇4th 陰 64

「彼は舟が水漏れすることを想定して、穴に詰め込むぼろきれをあらかじめ用意する。一日中警戒を怠らない。」

四爻 六四、繻(も)るに衣袽(いじょ)あり。終日(しゅうじつ)戒(いまし)む。 (六四、繻有衣袽。終日戒。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64は、人事を司る大臣のような立場にいます。

彼は君主の直属の家臣で、国全体の状況に目を配らせていますから、今はすべてがうまくいっています。

しかし、彼はどこかで問題が発生するのではないかと予想し、事前に対策を準備します。

舟が順調に川を渡っていますが、水漏れが発生した場合に備えて、彼はぼろ布を事前に準備するような慎重さです。

また、彼は一日中、警戒を怠りません。


この爻(Line)が出たら、あなたは64のような慎重さを大事にしましょう。

すでにあなたの運は完成されていて、今後はトラブルが予想されます。

事前に準備を進めれば、トラブルが発生しても被害は最小に抑えることができます。


◇5th 陽 95

「東隣の家で牛を犠牲に捧げて派手に神を祀っている。しかし西隣の家でささやかに神を祀ることに及ばない。西隣の家は真心を込めて神を祀っている。神は彼らを祝福する。」

五爻 九五、東隣(とうりん)に牛を殺す、西隣(せいりん)之禴祭(やくさい)にしかず、実(まこと)に其の福を受く。 (九五、東隣殺牛、不如西隣之禴祭、実受其福。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


易経では東が「陽」、西が「陰」を表します。

ここでは東隣は95を、西隣は62を表します。

95は、権勢を誇る君主です。

しかし、「完成」を意味するこの卦(Hexagram)においては、95は今が絶頂で、これ以上の運気上昇はなく、すでに衰退が始まっています。

にもかかわらず95は、今後転落すると思ってもいません。

さらに権勢を上げるため、95は盛大に神を祀って、牛を犠牲に捧げ、大きな祭りを催します。

一方で、62は95の家来です。

62は国が衰退していく時代に頭角を表していく人です。

が、彼は今は従順に君主に仕えています。

62は倹約して国力を蓄えていますから、ささやかな貧しい祭りしか神に捧げられません。

でも、神の福を受けるのは、ささやかな祭りで今後に備える62のほうです。

人間界では、最盛期は衰退の始まりです。

あなたは絶頂期である今こそ、衰退を予測して倹約するべきです。

西隣の家は、いずれは東隣の家を抜いて王となるでしょう。


※余談

易経は、殷と周の時代の故事を多く取り入れています。

殷王朝の絶頂期に王であった紂王は暴君でした。

彼は殷王朝の永遠の繁栄を信じ、多くの家臣を苦しめました。

西の外れの小国である周の文王は、紂王に虐待されつつ、つつましく国力を蓄えました。

最終的に文王の死後、息子の武王が殷王朝を打倒します。

東隣の主は、紂王(King Zhuo)を指すともいいます。

中国史では、一代で栄華を極めた絶対君主が、信じられぬような末路を迎えているケースは多く見られます。

この爻(Line)に書かれることは実在しています。

気になる方は、新の王莽、梁の武帝、隋の煬帝などを検索してみてください。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「狐が川を渡ろうとして頭の先まで水に沈んでしまった。危うい。」

上爻 上六、其の首(こうべ)を濡らす。厲(あや)うし。 (上六、濡其首。厲。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は、完成を意味するこの卦(Hexagram)の終極点にいます。

すでに絶頂期は終わり、状況は衰退に向かっています。

しかし上6(Upper6)は、一番上の位置にいます。

彼は、今も自分が絶頂期にいると思っています。

彼には現実が見えていませんので、無謀な計画を立てて実行します。

結果は、狐が川を渡ろうと川に入って行って、頭まで水に浸かってしまいます。

つまり彼はおぼれ死にます。

危ういことです。


この爻(Line)が出たら、あなたは冷静に現状を考えてください。

あなたは今は絶好調でも、半年先、一年先はどうですか?

衰退に向かう時期においては、あなたは自分を過信しては危険です。

慎重に、今後の衰退に備えることのほうが今は重要、新たな挑戦をすべきではありません。


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