NO.11 泰(たい= "Pervading"):安泰、安定した時代

 泰(たい= "Pervading")シンボル

泰(たい= "Pervading")



⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚋ 5th:陰:65
⚋ 4th:陰:64
⚊ 3rd:陽:93
⚊ 2nd:陽:92
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上6(Upper6)、65、64、93、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

泰(たい)は、安泰。安定した時代。
泰(たい= "Pervading"):安泰、安定した時代。

構成の解説

上卦(Upper trigram)「☷ 坤(こん:Kun)」="Field":大地・従順さ・女性原理・消極・受動的

下卦(Lower trigram)「☰ 乾(けん:Qian)」="Force":天・始まりのエネルギー・男性原理・積極・能動的


下にある「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"は「陽」のエネルギーである。

「陽」がさらに上へ進もうとしているが、上は「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"である。

「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"は、「陽」を受け入れる大地のマイナスエネルギー。

これは「陰」と「陽」が和合するめでたい形である。

下から「陽」が上へ向かって伸びていく卦(Hexagram)のことを「消息卦(Transition Hexagram)」と呼ぶ。

<䷊ 泰(たい= "Pervading")>は、これからまだ「陽」の勢いはまだまだ伸びていくことを予感させる。

判断はめでたいものも多い。

この卦(Hexagram)は、安泰、安定を意味する。

しかし、易経の世界では、いいことと悪いことは交互に循環する。

これは大きな循環の中での一時の安泰に過ぎない。

<䷊ 泰(たい= "Pervading")>は大きな循環の中での人の道を考察する。


卦辞(かじ=Explanation of the Hexagram)

「今は小が往き、大が来る偉大な時である。吉。思うことは実現する。」

卦辞 泰、小往き大来たる。吉。亨る。 (泰、小往大来。吉。亨。)

「小が往き、大が来たる」は、不利な情勢が好転するときに使われる言い回しです。

地である「☷ 坤(こん:Kun)」="Field"の下に、天である「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"が潜った形です。

この状況は一見良くないかに見えますが、「陽」のエナジーは地中から発生して上へ上へと立ち上ります。

これは「陰」と「陽」が混ざることを意味し、新たなるものが無限に生み出されるめでたいイメージとなります。

下のほうから「陰」がどんどん伸びていく形、あるいは下のほうから「陽」がどんどん伸びていく形をもった卦(Hexagram)のことを、「消息卦(Transition Hexagram)」といいます。

「陽」は正義、道理、善人のイメージ。

「陰」は不義、不正、悪人のイメージ。

「陽」が上昇していくのは悪を打ち消していくことです。状況が好転します。

また、「陽」は君主を意味し、「陰」は家臣を意味します。

君主と家臣が協力し合えば、天下は安定します。

<䷊ 泰(たい= "Pervading")>の人物イメージは、内側に健全で力強いものを秘めて、外側に向かって努力するような人物で、幸運が訪れます。

基本的に、物事が思いのままに進む可能性をもった、安泰な時機であることを暗示しますが、運がいい時は想定外の災いに遭遇するものです。

この卦(Hexagram)は安泰の状況での処世術が展開されます。


※この卦(Hexagram)の形を反対にした卦(Hexagram)が<䷋ 否(ひ="Obstruction")>で、意味的にもまったく逆で、対をなしています。

ご関心のある方はここからご参照ください。


◇ひと言アドバイス(象)

安泰の時こそ大義や主題をはっきりさせよう

今は天と地が混ざり合うことで大きな安定が成立する状況です。

この状況においては、世界のあるべき姿をデザインし、世界のテーマをはっきりさせて実現に向けて努力しましょう。

そうすることで、人々を右に左に方向付けなさい、と易経は主張します。


不安定なときは、生きるのに必死で余裕はないものです。

物事が安定してくるならば、今後のさらなる発展をデザインし、そのための大義や主題をはっきりさせていく必要があると易経は言っているのです。

これは組織でも個人でも当てはまることです。

スタイルとテーマがなければ、人は進んでいくことができません。

そしてそれを考えるには、安定が訪れたときこそベストのタイミングです。

安定におぼれて堕落してしまうものも多いわけですから、安定期だからこそ未来のことを考えていきましょう。


爻辞(こうじ=Explanation of the Lines)

泰(たい= "Pervading")
⚋ 6th:陰:上6(Upper6)
⚋ 5th:陰:65
⚋ 4th:陰:64
⚊ 3rd:陽:93
⚊ 2nd:陽:92
⚊ 1st:陽:初9(First9)

※上6(Upper6)、65、64、93、92、初9(First9)は、易経における伝統的な各爻(こう=Line)の表記法である。ここでは漢数字(Chinese numeral)ではなく、アラビア数字にしている。

◇1st 陽 初9(First9)

「茅を引き抜こうとすると、その根が地中でつながっていて、いっしょに何本も抜ける。あなたは世に出ようとするにあたり、友と一緒に世に出るならば吉である。」

初爻 初九、茅(ちがや)を抜くに茹たり。其の彙(たぐい)と以(とも)にす。征(ゆ)きて吉。 (初九、抜茅茹。以其彙。征吉。)

(※一番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


初9(First9)は、この卦(Hexagram)の出発点ですが、一番目の位置に「陽」が正しく入ります。相応しい場所にふさわしい人がいるのを意味します。

立ち昇る「陽」のエナジーの始まりですので、世に出たばかりの君子を指します。

これから上昇して名をあげていこうとするにあたり、彼には共に行動する仲間がいます。

これは92、93を指します。


あなたは自分一人だけで世に出ずに、下で根がつながった茅のように、友たちといっしょに活動していきなさい。

そうすれば吉である、と易経は判断します。


◇2nd 陽 92

「彼は、きたないものでも包容して受け入れ、大胆不敵に河を徒歩で渉り、遠くにいる賢者を忘れず心にとどめ、必要な場合は友であっても温情に流されず切り捨てる。これは彼が王にふさわしいバランス感覚を持っているからである。」

二爻 九二、荒(こう)を包(か)ね、馮河(ひょうか)を用い、遐(とお)きを遺(わす)れず、朋亡(うし)なう、中行に尚(かな)うを得たり。 (九二、包荒、用馮河、不遐遺、朋亡、得尚于中行。)

(※二番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。「中庸」を意味する場所。)


92は、下卦(Lower trigram)の真ん中にいます。

これは彼がバランス感覚に優れた徳を持っていることを意味します。

また彼は「陽」なので、聡明な君主を意味します。

彼はまだまだ上昇していく途上にあるので、いろいろと煩わしいことやきたないこともやっていかねばなりません

彼は汚い仕事も受け入れますし、時には徒歩で大河を渉るような冒険をすることも怖れません。

彼には遠く離れて対応関係にある65がいます。65は世間から隠れた賢者です。

92は、65が無名の人であっても彼を敬い、多くの智慧をもらいます。


聡明なバランス感覚をこのように発揮していくならば、大きな志を達成することができるでしょう。

このようであれば、吉とは書かれませんが、吉であることは間違いありません。


◇3rd 陽 93

「平安な時期はいつかは終わるし、幸運は失われてもまた戻ってくるものである。物事には良いときもあれば悪い時もある。困難なときでも自分らしさを失わないようにしなさい。そうすればなにも問題はない。あなたは憂い嘆かなくても、またいい時期が来ることは約束されている。あなたは従業員として勤めて給与をもらう方が自活するよりも福がある。」

三爻 九三、平(たいら)かにして陂(かたむ)かずということなく、往きて復(かえ)らずということなし。艱貞(かんてい)ならば咎なし。恤(うるう)なかれ其れ孚(まこと)あり。食に于(おい)て福あり。 (九三、无平不陂、无往不復。艱貞无咎。勿恤其孚。于食有福。)

(※三番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。)


93は、伸びようとする「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"の最高点、絶頂期にいます。

93は「陽」で、「陽」が入るべき三番目の位置にいます。

彼はなにも不足はなさそうに見えます。

しかし易経の作者はここで世界の道理、世界の秘密を諭します。

何事も、極大に達したものは縮小を始める。

運が去ってしまってもまた必ず戻ってくる。

易経の思想は、世界を良し悪し、大小、運不運の大いなる循環と捉えています。

なので、今あなたは絶頂期にいるけれども、やがては今の安定は崩れて、不安定で不運な時期にさまようこともあるでしょう。

あなたは不運な時でも困難に耐えながら自分らしさを失わず努力するならばなにも心配しなくていい。

嘆かなくてもまたいい時期がやってくることは世界の原理として約束されているのだから。

これは易経の思想の根本であり、道教の考え方でもあります。

なお、あなたは今は従業員として勤務した方が、自営するよりも良いだろう、と易経は言います。

安定が絶頂に達すれば、今度は不運が来ます。

不運な時は人に従う生き方をした方が賢明です。


◇4th 陰 64

「彼は絶頂の安定期を失い、ひらひら舞い降りるように元の立場に戻る。彼は富も失い貧しくなったけれど、気心知れた仲間たちは一緒についてくる。『君らがついてきたって、今の俺には富も力も何もないよ?』と彼が言う必要もなく、この仲間たちはすべて分かったうえで彼についてくる。」

四爻 六四、翩翩(へんぺん)たり。富まず其の隣とともにす。戒(いましめ)ずして以って孚(まこと)あり。 (六四、翩翩。不富以其隣。不戒以孚。)

(※四番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。)


64は、「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"の領域を過ぎました。

彼は富も安定もなくなった者です。

彼は力を失った「陰」ですが、今の自分の立場を心得ています。

彼は柔軟な四番目の立場にいますので、流れに逆らわずひらひらと風に舞う花びらように、もともとの彼自身の立場に舞い降りていきます。


その気心知れた仲間の「陰」たち、65と上6(Upper6)も一緒についてきます。

彼らはみな「陰」です。彼らはみな財産もありません。

「ついてきたって、俺には金はないぞ?」などと64が忠告しなくても、彼らは64をよく理解して慕ってついてきている真の友人たちです。

彼らはもともと下の方にあるべき「陰」たちです。

たまたまこれまで彼らは不相応に上にいたのですから、当然の帰結です。


この爻(Line)の判断としては、悪人たちが集まって聖堂を侵すことがあるから要注意と捉える場合もあるようです。

が、それは儒学者の道徳論で、易経の本来の思想には合わないように私は思います。

易経は循環思想を持っています。

ここに示される彼らのようにすべてを失ったとしても、またいつかは運気がめぐってくるものです。

このようにあなたが没落していてもあなたを慕う仲間がいるということは、あなたにとって大きな財産です。

仲間同士で助け合う中で、またあなたは運気を得て上昇することもあるでしょう。

友人とは、彼らに利益がなくてもあなたを理解してくれる人のことです。

そういう友人がいるならば、大事にすべきなのです。

すべてを失ったときに、はじめて誰が友人であるのかがわかるものです。


◇5th 陰 65

「帝乙(Dì yǐ)がその末娘を有力家臣に嫁がせた。幸いがあって、しかも大いに吉である。」

五爻 六五、帝乙(ていいつ)妹を帰(とつ)がしむ。祉(さいわい)をもってす元吉。 (六五、帝乙帰妹。以祉元吉。)

(※五番目の位置は、「陽(Yang)」が入るべき場所。「中庸」を意味し、君主を意味する場所。)


65は、この卦(Hexagram)の主体です。

五番目の位置は君主の地位を意味します。

ここは本来「陽」が入るべき位置ですが、ここではいい意味で「陰」が入っていて、中庸で柔軟な君主を表しています。

「帝乙(Dì yǐ)が末娘を嫁がせた」というフレーズは、ほかの卦(Hexagram)でも出てきます。

帝乙(Dì yǐ)は、日本語では「Tei-yitu」と発音します。

彼は古代中国の殷王朝に存在した優れた王です。

これは易経では一般名詞的に優れたバランス感覚の王、あるいは柔軟な最高責任者を意味します。

王が末娘を、92に嫁がせます。

92は下にある「☰ 乾(けん:Qian)」="Force"の中心、有力な家臣の意味です。

65は「陰」なので、国を安定させるために有能な家臣に政治を任せる柔軟性を持った名君です。

またその信任を受ける92は「陽」です。

彼もまた中庸でバランス感覚を持っています。

65は「陰」、92は「陽」なので彼らは調和する関係です。

この婚礼は、国を幸いに導くことになるでしょうから、大いに吉となります。


あなたが結婚や就職やビジネス上の取引先を占ってこの爻(Line)が出た場合、相手はあなたよりも劣る立場かもしれませんが、気にせず話を進めて吉です。

相手との公式な関係を結ぼうとするときには、幸福な関係となるでしょう。


◇6th 陰 上6(Upper6)

「安泰の世は過ぎ去り、盛大を誇った君主の城の城壁は崩れて元の堀だけとなってしまった。あなたは退勢挽回のために戦争をしようなどと考えてはいけない。領内の村人があなたにいろいろと要求してきて、あなたは従わざるを得ない。恥ずかしいことは免れようがない。」

上六、城、隍(ほり)に復(かえ)る。師(いくさ)を用いるなかれ。邑(ゆう)より命を告ぐ。貞なれども吝。 (上六、城復于隍。勿用師。自邑告命。貞吝。)

(※六番目の位置は、「陰(Yin)」が入るべき場所。属性がない場所。)


上6(Upper6)は安泰の終極点を意味します。

泰平の時代は終わり、暗黒時代に入りました。

盛大を誇った城の城壁が崩れて、堀だけの元の姿に戻りました。

上6(Upper6)は今は落ち目な状況です。

彼は虚栄だけは高いので、戦に打って出て退勢挽回を図りたがります。

しかしこんな状況ですので彼はやめるべきです。

あまりに彼の政治は乱れているので、領国の村人たちのほうから、彼にああしなさい、こうしなさいといってくるような始末です。

今は没落した状況ですから、そうした声に従うことが彼の正しい態度です。

しかし恥ずかしい状況です。


あなたが占ってこの爻(Line)が出た場合は、あなたは落ち目の時期にあるので、おとなしく周りの言うことを聞くべきです。

しかし、<䷊ 泰(たい= "Pervading")>では、循環思想が繰り返し登場しました。

落ち目の暗黒時代というのも、大きな循環の中では一つの局面に過ぎません。

あなたあそのことを理解し、落ち目で辛く恥ずかしいときでもまずはできることからやっていきましょう。

あなたらしく生きていくならば、また太陽が昇る時期も当然あるのです。

最悪の運気の時こそ、地中にまさに最初の「陽」のエナジーが発生する瞬間です。

腐らずに生きていきましょう。


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