易経の起源 その2 易経と遺伝子との奇妙な関係

 前回、”易経の起源 その1 易経の成り立ちに関する「定説」”では、古典作品として一般的に考えられている易経の成り立ちについて書きました。

今回は、ちょっと奇妙な「事実」から、一般的な易経の起源に対しての異説を唱えてみたいと思います。

が、そのためには前置きとして、高校の生物のお話しが必要となります。

やや理系のお話です。

退屈な方、結論だけでいい方は、後半からお読みください。

二つの「コード」の問題

最初に、次の二つの「コード」を見てください。

(1)UGGCGUAAAGCGACU・・・

(2)110101100111000000011001001011・・・


(質問)

これは、なんでしょう?

この二つは、どういう関係をもっているのでしょう?

一見、無意味なアルファベットの羅列と数字の羅列です。

易経とはなんの関係もなさそうにも見えますが、今回のお話では上にかかげた「羅列」は重要な意味を持つのです。

(ヒント)U=11  C=10  G=01  A=00

ランダムに見える二つの「コード」。関係性はなんだろう?
無意味に思われる二つの「コード」。関係性はなんだろう?

(答え)

(1)のアルファベットに、(ヒント)のような規則をあてはめた場合、(2)の数字の0,1の羅列は、(1)を0,1の数字(二進数)で置き換えたもの。


ところで、(1)はそもそも、なんでしょうか?


日本の高校で、「生物」を学んだことがあるならば、わかった人もいると思います。

これは、たんぱく質を構成するアミノ酸の指定コード=いわゆるmRNA(メッセンジャーRNA)のコードの一部です。

私たちの体の細胞核に存在している遺伝子は、新しいたんぱく質を生成するときに「設計図」を発行します。

それがmRNA(メッセンジャーRNA)です。

mRNA(メッセンジャーRNA)というと、最近では新型コロナウィルス(Covid19)感染症の予防や軽減を行うための、「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」が作られました。

多くの方が接種され、みなさんも名前は聞いたことがあると思います。

上の(1)、(2)は、


「四つの記号で構成されているmRNAの内容は、数字の0,1でも表すことができる」


ということを示しています。

私たちの体を構成する細胞の中には、すべて「遺伝子」が組み込まれています。

遺伝子は、細胞が分裂するときはコピーされてそのまま新しい細胞にも受け継がれます。

また、体の各所で使用されるたんぱく質を作り出すために、遺伝子DNAは、mRNA(メッセンジャーRNA)を発行します。

mRNA(メッセンジャーRNA)は、すべての細胞の中に存在する「リボゾーム」という場所に送られます。

「リボゾーム」は、「たんぱく質製造工場」にあたります。

リボゾームはこの四つの「文字」に当たる「ヌクレオチド」で書かれたコードを読み取ります。

そして、指定されたアミノ酸を順番に作り出していきます。

これが私たちの体にあるすべての細胞で行われる「たんぱく質を作り出す作業」です。

遺伝子の構造

遺伝子は、「ヌクレオチド( DNAやRNAを構成する単位)」と呼ばれる四つの記号が延々とつながって、長い二本の鎖のようになって細胞核に入っています。


遺伝子DNAにおいてヌクレオチドは、

T=チミン

C=シトシン

G=グアニン  

A=アデニン  

の四つしかありません。


この四つは、

A=アデニンとT=チミンはくっつく

G=グアニンとC=シトシンはくっつく

という関係にあります。


遺伝子は、この四つの「ヌクレオチド」でできたコードが二本、細胞核に入っています。

この二本は、A=アデニンにはT=チミンが、G=グアニンにはC=シトシンが対応しあっています。

つまり、この二本は鏡像関係にあるのです。

ヌクレオチドが対応しあいながら遺伝子は二本一組で存在し、二重螺旋の形で細胞核に入っています。

すべての細胞に、引き延ばせば二メートルの長さになる遺伝子が入っているのです。

筆者が昔、高校生指導で使っていた高校生物の参考書、「理解しやすい生物ⅠB・Ⅱ/文英堂刊」から、図を引用してみますと、このようになります。

遺伝子DNAの二重螺旋構造。細胞分裂にあたってはこれが分かれて、それぞれ対応するもう一本を作り出す。鏡の関係で二本がくっついて存在しているため、欠損が生じてもバックアップができる。
遺伝子DNAの二重螺旋構造。細胞分裂にあたってはこれが分かれて、それぞれ対応するもう一本を作り出す。「鏡の関係」で二本がくっついて存在しているため、欠損が生じた場合はバックアップができる。

もう少しわかりやすく説明します。

二本で一組の遺伝子のうちの一本が、


AAGTCATCCGAT・・・


という内容でできているとすると、これとくっついているもう一本の遺伝子は、先ほど述べたAとT、GとCの対応関係でできているわけですから、


AAGTCATCCGATT・・・

TTCAGTAGGCTAA・・・


というふうに並行して存在します。

なぜ、二本で一組として存在するのか。

細胞が分裂して新しい細胞を増やしていくときは、二本の遺伝子の鎖の結合が離れ、それぞれが対応する片割れを「コピー」する、という驚くべきメカニズムで細胞分裂は行われます。

また、なんらかの理由で片方に「欠損」が生じた場合には、残った一本がバックアップファイルとして欠損部分を修復します。

これは実に驚異的なシステムなのです。

たんぱく質はどうやって作られる?

体の部品となる「たんぱく質」を作るときは、遺伝子DNAはどうするのか?

この場合、長い長い二本の遺伝子コードの一部が、結合を解除して「開き」ます。

そして、開いた部分の一本から、部分的なコピーでmRNA(メッセンジャーRNA)が作り出されます。

それがすべての細胞の中にある「リボゾーム」というたんぱく質製造工場にあたるところへ送り込まれて、たんぱく質が作られます。

この「部分コピー」では、

遺伝子のA=アデニン→mRNA(メッセンジャーRNA)ではU(ウラシル)が対応

遺伝子のT=チミン→mRNA(メッセンジャーRNA)ではA(アデニン)が対応

遺伝子のG=グアニン→mRNA(メッセンジャーRNA)ではC(シトシン)が対応

遺伝子のC=シトシン→mRNA(メッセンジャーRNA)ではG(グアニン)が対応

というコピーの対応関係になります。

mRNA(メッセンジャーRNA)ではT(チミン)に代わって、U(ウラシル)が置き換わっています。

これは、「一文字」を変えることで遺伝子DNAと、mRNA(メッセンジャーRNA)を明確に区別し、遺伝情報の誤作動を防ぐシステムとなっているのです。

たとえば、なんらかの理由で遺伝子DNAがちぎれて、細胞内に漂ったとしても、T(チミン)とU(ウラシル)が異なるため、リボゾームはちぎれた遺伝子DNAには反応しません。


さて、長い前置きになりましたが、ここからが本題です。

「リボゾーム」というたんぱく質製造工場では、mRNA(メッセンジャーRNA)の情報を、どう処理するか?

・・・mRNA(メッセンジャーRNA)の持っている「ヌクレオチドUCGA」四文字からの三文字で、一つのアミノ酸(たんぱく質の構成要素)を指定する情報ととらえます。

この三文字で一つのアミノ酸を指定する暗号を、「トリプレット構造」=「コドン」といいます。

これは、「理解しやすい生物ⅠB・Ⅱ/文英堂刊」から、図を引用してみますと、こんなふうにアミノ酸と「コドン」が対応しています。

U(うらしる)、C(シトシン)、G(グアニン)、A(アデニン)の文字三つで一つのアミノ酸を指定するのがたんぱく質指定のための「言語」である。
U(ウラシル)、C(シトシン)、G(グアニン)、A(アデニン)の四文字が「コドン」を構成する。文字三つで一つのアミノ酸を指定する。

すると、最初の質問で出てきたアルファベットの羅列は、

(1)UGGCGUAAAGCGACU・・・

については、三文字づつ区切ると、

UGG/ CGU/ AAA/ GCG/ ACU/・・・

となり、これが指定するアミノ酸の組合せは、

トリプトファン+アルギニン+リジン+アラニン+トレオニン・・・

となるのです。

もう一度、「理解しやすい生物ⅠB・Ⅱ/文英堂刊」から、図を引用してみます。

遺伝子DNAやmRNA(メッセンジャーRNA)は、驚異的な「システム」を持っている。
遺伝子DNAやmRNA(メッセンジャーRNA)は、驚異的な「システム」を持っている。

「遺伝子コード」は、易経記号にも変換できる!

さて、話を最初に戻して、今度は、


(2)110101100111000000011001001011・・・


を考えてみます。

これは、遺伝子から複製されたmRNA(メッセンジャーRNA)を、「0,1」で次のように置き換えた場合に出てくる数字の羅列でした。

ここでは、仮に

U=11  

C=10  

G=01  

A=00

と置き換えた場合です。

・・・これは、なにかに似ていませんか?

そう、もし、

0=「- -」=易経記号の陰(Yin)

1=「ー」=易経記号の陽(Yang)

とした場合、実は遺伝子のヌクレオチドは、易経の陰陽二つの組み合わせで作り出される「四象(Four Symbols)」でも表すことができるのです。

四象(Four Symbols)に、二進数とヌクレオチドを仮に当てはめてみます。


⚌太陽(Big Yang)=11=U(ウラシル)

⚍少陰(Small Yin)=10=C(シトシン)

⚎少陽(Small Yang)=01=G(グアニン)

⚏太陰(Big Yin)=00=A(アデニン)


mRNAのヌクレオチド(UCGA)は、三つ(コドン)で一つの「アミノ酸」を指定する記号でした。

これは、数字の「0,1」で表記すれば、二進数である「0,1」六つの組合せで、一つのアミノ酸を指定できることになります。

二進数「0,1」は、デジタル言語でもある。実は二進数だけで言語情報はすべて置き換えが可能である。易もまた二進数で書かれていると見ることもできる。
二進数「0,1」は、現代コンピュータのプログラムをつかさどるデジタル言語でもある。実は二進数だけで言語情報はすべて置き換えが可能である。易経もまた二進数で書かれていると見ることもできる。

易経では、陰陽の六つの組合せで、一つの「卦(Hexagram)」を表します。

つまり、上の数字コードからは、易経の卦(Hexagram)も出すことができるのです。

(2)に出てきた数字の羅列を、


 110101/100111/000000/011001/001011・・・


と数字六個ずつで区切った場合、

⚌太陽(Big Yang)=11=U(ウラシル)

⚍少陰(Small Yin)=10=C(シトシン)

⚎少陽(Small Yang)=01=G(グアニン)

⚏太陰(Big Yin)=00=A(アデニン)

これに先ほどの対応を当てはめれば、この数字コードは、


睽("Polarising")/ 无妄("Without Embroiling")/ 坤("Field")/ 蠱("Correcting")/ 漸("Infiltrating")


と、易経の卦(Hexagram)を並べたものが(2)の数字の羅列に当てはまります。


遺伝子DNAからのアミノ酸指定コード「コドン」と易経の奇妙な一致

ここまで見てきた、遺伝子DNAや、mRNAの構造モデルが解明されたのは、今からまだほんの70年ほど昔の話にすぎません。

ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリック、そしてモーリス・ウィルキンソンのグループが、論文『デオキシリボ核酸の分子構造』でこのことをまとめました。

その論文が、1953年4月25日に発行された『ネイチャー』171巻1356号に掲載されたのです。

この研究で、ワトソンとクリックたちは、1962年のノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

今年(2023)で、『ネイチャー』に論文が発表されてからちょうど70年です。

現在、遺伝子の研究は急速に進みました。

人類は「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」を開発しました。

さらに遺伝子を操作することで、人類の性質自体を変えようとしています。

しかし、ここまで見てきたように、1950年代に発見されたこの遺伝子の構造は、多くの点で易経と非常に酷似しています。

遺伝子モデルと易には、奇妙な一致点がある。
遺伝子モデルと易経には、奇妙な一致点がある。

たとえば、


・遺伝情報は四つのヌクレオチド(遺伝子DNAではTCGA、mRNAではUCGA)で構成される。

易経も四つのシンボル(⚌、⚍、⚎、⚏)」で構成される。


・mRNA(メッセンジャーRNA)は、四つのヌクレオチド(mRNAではUCGA)のうちの三つ(コドン)で一つのアミノ酸を指定する。

たとえば、CUUとか、GACといった形が一つのアミノ酸を指定する。

易経は四つのシンボル(⚌、⚍、⚎、⚏)」のうちの三つで一つの「卦(Hexagram)」を指定する。


・四つのヌクレオチド(mRNAではUCGA)のうちからの三つを使用して表現できる組合せは、4×4×4=64通りである。

※コドン自体は64通りある。

が、そのうち60通りは20種類のアミノ酸のどれかを指定する。

64通りのうちの一つはアミノ酸生成の「開始」を指示する記号。

64通りのうちの三つはアミノ酸生成の「停止」を指示する記号。

64通りの「コドン」は、結局は22通りの意味をもつ。

ちなみに22は、タロットカードの大アルカナの枚数である。

易経の陰陽六つで作られる卦(Hexagram)も、八卦(Eight trigrams)を基準にすれば8×8=64通りある。

また四象(The Four Symbols)を基準にすれば4×4×4=64通りである。

四象(The Four Symbols)を基準にした場合、易経は数理的に遺伝子のコドンと同じである。


・いずれも、二進数「0,1」の「デジタル」で表現することが可能。


これは、別に筆者が発見したわけではありません。

ワトソン&クリックたちの研究が広く知られるようになってくると、多くの人たちが遺伝子構造が易経と酷似していることに気づきました。

1976年、マルティン・ションブルガー博士が、「易経と遺伝子コード」という著作を発表したりしています。

こうしたことは、高校生物程度の遺伝子の知識がある人で、易経の構造を熟知している人ならば、誰でも気づくことです。

易経は遺伝子モデルなのか・・・?

こうした遺伝子と易経の構造上の類似点については、「科学的」に言えば、「偶然の一致」に過ぎません。

遺伝子はごく最近の生物学的発見であり、易経は起源が不詳の中国古典です。

この二つの間には、なんの関連性も文献学、考古学からは見出すことはできないのが当然です。

つまり、この両者の関係は、「類似点がある」ということ以上には、実証科学としてはなんの結論も出すことはできないのです。

易と遺伝子にある相似関係。「同じ」であるとの証明はできない。しかし、ここから様々な仮説は立てることができる。
易経と遺伝子の相似関係。「同じ」であるとの証明はできない。しかし、ここから様々な仮説は立てることができる。

・・・しかし、私たちは仮説を出すことは自由です。

もし、次のような仮説を立ててみたら、どうなのでしょうか?

「易経は、なんらかの方法で見出された遺伝子の構造モデルの一つである」

・・・これは、とうてい立証はできない仮説です。

が、実は易経の起源や成り立ちというものを考察するにあたっては、こういう仮説があったほうが、むしろ多くの意味で論理的な説明が可能なのではないか?と筆者は考えるのです。

また、非常に多くの想像がかきたてられる話でもあります。

さいわい、筆者は科学的な思考を持っているつもりですが、学者でもなければ、アカデミズムの世界とは無縁な、一介の自由人的な個人的易者に過ぎません。

私は立場上、こうした仮説を立ててみることも自由です。

あくまで、学説とかではなく筆者個人の考えることとして、次回以降、この仮説をもう少し詳しくご紹介してみたいと思います。


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